記事の内容
電気料金が心配でエアコンを使わない高齢者は少なくない。消防庁の報告によると、日本では熱中症による救急搬送の約4割が「住居(家の中や敷地内)」で発生している。前代未聞と言われるくらいの暑い夏、エアコンをつけて水分をとるのは基本だろう。
「今年の6月って、あまり暑くなかったですよね。古希を迎えた母は『関東は涼しいね』なんて言っていたんです。ところが7月に入ると急に暑くなった。それでも母はエアコンをつけようとしなかった。だから適切にエアコンを使ってねと、毎朝言っては出勤していたんです」
マミコさんは3歳年上の夫との間に、高校生と中学生の男の子がいる。息子たちは部活動に忙しい。マミコさんは基本的には定時で引き揚げて夕食の支度をし、息子たちや夫を待ち受ける。
「時々母が一品作ってくれることがあるので助かっていました。だけどこのところ、やはり暑いせいかあまり元気がなくて……」
一人暮らしをしていたときはそんなことを言わなかったし、昨夏、実家へ行ったときはエアコンがついていた記憶がある。電気代を考えて遠慮しているのだろうか、どう言えば適切に使ってもらえるだろうかとマミコさんは考えていた。
7月に入ってすぐ、マミコさんが帰宅すると、母が自室でぐったりしていた。あわててエアコンをつけ、水分をとらせようとしたが戻してしまう。首や足の付け根などを保冷剤で冷やしたが、なかなかよくならず、息子が「そんなことしていても間に合わないよ」と救急車を呼んだ。
父が脱サラして自営業となったこともあり、母の年金は多くはない。月に8万円ほどだ。母はそのうち6万円を渡そうとした。だが母の病院代もあるし、少しは自分の楽しみを見つけて使ってほしいと思い、マミコさんは4万円を受け取ることにした。母の分の光熱費や食費はそれでまかなえている。
「いくら協力してほしいという言い方をしても、母としては『エアコンを使うな』と言われたも同様ですよね。それで病院に運ばれたのでは本末転倒。夫にはストレートに言いました。エアコンを使うのを控えろって言ったでしょと。すると夫は節約に協力してほしいだけだって。上の子が『高齢者にそんな言い方したら、使うなと言われていると思うに違いないよ。だいたい、お父さんは冷たいよ』って。夫は憮然としていました」
おそらく夫は、本心では節約しろと思っているだろう。だが、救急車で運ばれるようなことが増えると、その後のケアも含めてマミコさんの負担が大きくなるだけだと分かったようだった。
「夫も私も中小企業に勤めているので、世間で言われるほど景気がいいとは思えないし、実質手取りは減っています。物価はどんどん上がるし、考えたら追いつめられていくだけ。でも暗い顔をしていても、時間は同じように過ぎていく。私は家族5人で毎日、楽しく過ごしたいだけなんです」
夫にとっては他人である母だから、夫の気持ちもなるべく尊重したい。ただ、本当は母にも夫にも、遠慮せずに家族として接してほしいんですけどねと、マミコさんは少しつらそうな表情になった。
<参考>
・「熱中症情報」(総務省消防庁)
文:亀山 早苗(フリーライター)
明治大学文学部卒業。女性の生き方を軸に、家族、夫婦関係、働き方などをテーマに取材・執筆を続ける。くまモンの追っかけ歴は長く、近著に『くまモン力』がある。
エアコンをつけない母
おととし夏に父が亡くなり、母が実家で一人暮らしとなっていたマミコさん(47歳)。古希を迎え、足腰が弱りつつあったのが心配で、家族に相談し、ついに今年初めに母を引き取って、首都圏の自宅で同居するようになった。「今年の6月って、あまり暑くなかったですよね。古希を迎えた母は『関東は涼しいね』なんて言っていたんです。ところが7月に入ると急に暑くなった。それでも母はエアコンをつけようとしなかった。だから適切にエアコンを使ってねと、毎朝言っては出勤していたんです」
マミコさんは3歳年上の夫との間に、高校生と中学生の男の子がいる。息子たちは部活動に忙しい。マミコさんは基本的には定時で引き揚げて夕食の支度をし、息子たちや夫を待ち受ける。
「時々母が一品作ってくれることがあるので助かっていました。だけどこのところ、やはり暑いせいかあまり元気がなくて……」
母がぐったりしていて
ふと気付くと、母の部屋のエアコンが使われている形跡がない。エアコンはちゃんと使ってねといつも言っているのだが、母は曖昧にうなずくだけだということにも思いが至った。ちゃんと聞いてないのかと思い、「エアコン使わないの」と尋ねると、「体が冷えるような気がしてね」ともごもご言う。一人暮らしをしていたときはそんなことを言わなかったし、昨夏、実家へ行ったときはエアコンがついていた記憶がある。電気代を考えて遠慮しているのだろうか、どう言えば適切に使ってもらえるだろうかとマミコさんは考えていた。
7月に入ってすぐ、マミコさんが帰宅すると、母が自室でぐったりしていた。あわててエアコンをつけ、水分をとらせようとしたが戻してしまう。首や足の付け根などを保冷剤で冷やしたが、なかなかよくならず、息子が「そんなことしていても間に合わないよ」と救急車を呼んだ。
母が涙目で話したのは……
「やはり脱水症状がひどかった。幸い、2日ほどの入院ですみましたが、これに懲りてちゃんとエアコンを使ってくださいと医師にも言われました。母に『エアコンが嫌とか言ってないで、本当にきちんと使って』と言ったら、母は涙目になって『言わないでおこうと思ったんだけど、実は……』と。なんと夫が6月の終わりに『今後、暑くなってもあまりエアコンを使わないでほしい』と言ったんですって。そもそも二人で働いても生活は苦しい。子どもたちの学費もある。節約できるところは節約したいので協力してほしいと。圧のある言い方ではなかったし、私なんかが一緒に住むことになったから、よけい大変なんだろうと思ってと母は遠慮がちに言いまして」父が脱サラして自営業となったこともあり、母の年金は多くはない。月に8万円ほどだ。母はそのうち6万円を渡そうとした。だが母の病院代もあるし、少しは自分の楽しみを見つけて使ってほしいと思い、マミコさんは4万円を受け取ることにした。母の分の光熱費や食費はそれでまかなえている。
「いくら協力してほしいという言い方をしても、母としては『エアコンを使うな』と言われたも同様ですよね。それで病院に運ばれたのでは本末転倒。夫にはストレートに言いました。エアコンを使うのを控えろって言ったでしょと。すると夫は節約に協力してほしいだけだって。上の子が『高齢者にそんな言い方したら、使うなと言われていると思うに違いないよ。だいたい、お父さんは冷たいよ』って。夫は憮然としていました」
夫の気持ちも尊重したいが
自分が原因で家族内に亀裂が入ったと分かれば、母はさらに気を使うだろう。マミコさんは、母に「ここはお母さんの家でもあるんだからね、自分が居心地いいように暮らしていいんだから」と何度も言った。息子たちも、そしてついには夫も「ごめんなさい」と頭を下げた。おそらく夫は、本心では節約しろと思っているだろう。だが、救急車で運ばれるようなことが増えると、その後のケアも含めてマミコさんの負担が大きくなるだけだと分かったようだった。
「夫も私も中小企業に勤めているので、世間で言われるほど景気がいいとは思えないし、実質手取りは減っています。物価はどんどん上がるし、考えたら追いつめられていくだけ。でも暗い顔をしていても、時間は同じように過ぎていく。私は家族5人で毎日、楽しく過ごしたいだけなんです」
夫にとっては他人である母だから、夫の気持ちもなるべく尊重したい。ただ、本当は母にも夫にも、遠慮せずに家族として接してほしいんですけどねと、マミコさんは少しつらそうな表情になった。
<参考>
・「熱中症情報」(総務省消防庁)
文:亀山 早苗(フリーライター)
明治大学文学部卒業。女性の生き方を軸に、家族、夫婦関係、働き方などをテーマに取材・執筆を続ける。くまモンの追っかけ歴は長く、近著に『くまモン力』がある。












