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学校が夏休みに入り、JRの普通列車が乗り放題となる「青春18きっぷ」のシーズンがやってきた。もっとも、2024年の冬以降、きっぷの使い方の自由度が大幅に制限されたことから愛好家の反発を招き、利用者もかなり減っているようだ。
それでも一部のメディア報道によると2025年には24万枚販売されたとのこと。激減との見方もあるけれど、条件が厳しくなっても、まだまだ根強いファンがいるとも言える。
青春18きっぷの歴史と変遷
もともとは、お金はないけれど自由になる時間はたっぷりある若者をターゲットにした青春18きっぷだったが、当初から年齢制限がなかったため、全世代にわたって愛好者は多かった(当初の名前は「青春18のびのびきっぷ」)。1日券3枚(のちに4枚)と2日券1枚のセット販売を経て、1984年には1日券5枚セットで1万円という設定となり、消費税による価格変動はあったもののこの形態が長く続いた。
しかし、セット販売にもかかわらず、1日券をバラして売買することが横行したことから、それを安易に行えないようにするためか、1996年春季より5回分を1枚にまとめ、1回分の使用開始時に係員に日付スタンプを押してもらう形式に変更され、これが2024年夏季まで続くおなじみのスタイルとなった。
1枚のきっぷなので、複数人で一緒に利用するときは、全く同一行程を取らなければならない。それでも、5回分を1人で使い切ることができない人も結構いたためか、案外重宝されていたようだ。
また、3回あるいは4回使って未使用分があるきっぷを金券ショップなどにもちこみ、売買されていた話はよく耳にした。現実には、破格の価格でJR全線を利用できる極めてお得で便利なきっぷとして認識されていたのだ。
デフレ時代の申し子だった「青春18きっぷ」
近年、デフレの時代が長く続き、不況でもあったので、世の中のあらゆる分野で「価格破壊」がもてはやされた。高速バス、LCC(格安航空)、100円ショップ、安価なファストフード、ファストファッションなどなど。
しかし、コロナ禍や戦争を契機に世界経済は反転し、インフレ基調となった。そうなれば、格安の商品は値上げせざるを得ず、さらには淘汰(とうた)されるしかない。
青春18きっぷも格安さは鉄道旅行愛好者のみならず、世間一般にもかなり知れ渡っていた。数多くの青春18きっぷガイドブックが出回っていたこともあり、「元が取れるか」のみならず、どれだけお得に旅ができるかを競う傾向すらあった。本来格安きっぷとは無縁のはずのビジネスパーソンさえ、近場の出張や営業に青春18きっぷを愛用し、出張旅費を安く済ませる人も続出した。
こうなると、鉄道会社にしてみれば、逸失利益にもなり面白いわけがない。折から金券ショップでの不当売買、青春18きっぷの不正利用が問題にもなり、何らかの対策を講じなければならない状況だったのである。
新幹線延伸とローカル線の車両事情
また、青春18きっぷ離れは、JRをとりまく環境の変化も一因だ。1つは、新幹線網の整備による並行在来線の第3セクター化によりいくつもの路線がJRの路線ではなくなったこと。もう1つは普通列車の削減や車両の状況が旅にふさわしい設備ではなくなったことも影響しているのではないだろうか。
北陸新幹線延伸により、金沢や福井を中心とした北陸エリアは青春18きっぷのみでは鉄道旅が事実上できなくなった。全国各地を走る普通列車の車両も、路線によっては通勤型のロングシートが主流となり旅情とは程遠い状況が生まれている。
さらに合理化により普通列車の短編成化が進み、青春18きっぷ利用者が殺到することで混雑が激化し、普段利用する乗客との軋轢(あつれき)が生じることもあるようだ。
使える路線が減り、車内の快適性が悪くなれば、鉄道に愛着がなく、安いからという理由で青春18きっぷを使っていた利用者が高速バスやフェリーに流れるのも当然かもしれない。
「青春18きっぷ」は役割を終えたのか?
青春18きっぷの改変により、使い勝手が悪くなったといっても、5日間用の価格が1万2050円と据え置きなのは、ある意味、大サービスとも言える。3日用(1万円)の新設は、1日あたりの値段が3333円と割高感はあるものの、自由に行ったり来たりできるきっぷであることを考えると、乗車ルートを工夫すれば、まだまだ利用価値はありそうだ。
5日用は5日連続使用前提となり、そんな連続休暇は取れないと腹を立てている社会人がいるそうだが、JRとしては、そういう人は青春18きっぷではなく、もっとお金を払って列車に乗ってください、と言いたいのだろう。
どうやら、年齢制限はしないものの、本来の学生を中心とした若者対象のきっぷに立ち返りたいという意図が見え隠れしている。
青春18きっぷは、あくまでバーゲンの目玉商品であり、スーパーマーケットの半額商品が「安かろう、悪かろう」といったデメリットがあるのと同様、何もかもが良好で使い勝手がよい格安商品など本来は存在しないはずだ。
また、ヘビーユーザーには割引や特典などお得なサービスがあってしかるべきだが、青春18きっぷでしかJRを利用しないような儲けにならない客には冷たくなるのも企業としては当然のことなのであろう。
1980年頃に登場したフリーきっぷのうち、ナイスミディパスは早々と消え、フルムーン夫婦グリーンパスも2022年に40年の歴史に幕を閉じた。残るは青春18きっぷだけ。時代の流れの中、もう、その役割は終えてしまったのかもしれない。
この記事の執筆者: 野田 隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL・D51を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、「ヨーロッパ鉄道と音楽の旅」を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。












