オイシックス上村知輝にチームメートは「何で行かないの?」
プロ野球の新戦力補強期限が7月末で終わった。このタイミングで魅力的なオファーを受け、迷いに迷ったあげくにチーム残留を決めたのが、2軍ファーム・リーグに参加するオイシックスの上村知輝投手だ。とはいえ、上村がNPBに進むには、秋のドラフト指名が必須。その前に届いたのはお隣、韓国プロ野球からのオファーだった。この時期、韓国でも最後の補強が進むのだ。
「めちゃくちゃ迷いましたよ。本当のところは……」
7月下旬、こう漏らす上村のもとに届いたのは、韓国プロ野球に今季できた「アジア枠」で残りシーズンをプレーしないかというオファーだった。韓国では選手年俸がメディアの推定ではなく公開される。例えば、5月末に独立リーグの徳島からKIAタイガースに進んだ白川恵翔投手の場合、総額10万ドル(約1560万円)で、うち年俸が4万ドル(約630万円)。プレー期間が短くなるが、月ベースで考えれば上村に持ち込まれたのもこれに劣らない好条件だった。
上村は、創価大から入団して5年目を迎える右腕。ずっとチームの抑えを任され、独立リーグからNPB2軍に戦いの場を移しても数字を一つずつ重ねてきた。2024年はイースタン・リーグ最多の20セーブでタイトルを獲得し、昨年も28セーブ。そして今季の18セーブと合わせて通算66セーブを記録している。今年6月には、従来のNPB2軍記録だった58セーブを超えた。サイドスローからの独特の球筋と、150キロを超える直球が武器だ。
韓国からの話を知ったチームメートからは「何で行かないの?」という声がほとんどだった。行けば、プロ野球選手“らしい”収入を得られるのだ。もちろん魅力的ではあった。ただ上村は悩みに悩んだ末に、このオファーを固辞してオイシックスに残った。
「僕が行きたいのはあくまでNPB。そのためにはどうすればいいかと考えたんです」。韓国プロ野球を経由してのドラフト指名はルール上は可能だが、まだ叶えた選手はいない。しかもシーズンは残り2か月。助っ人外国人としてすぐ結果を求められるプレッシャーの中で、適応に時間がかかることもあり得る。メリットとデメリットを熟考した末にここで投げ続けると決め、断りを入れた。
ただ、韓国プロ野球の1軍から、戦力として来てほしいと誘われたのは、日本の2軍で投げ続けてきた上村にとって一つの大きな自信となった。韓国球界で導入されているABS(機器によるストライク判定システム)も「やってみたかったです」と興味を示す。「もし、去年のオフに韓国の話があれば行っていたと思います」。断った理由の一つに、NPBのスカウトに今季の進化を見ながら評価してほしいとの思いがある。3月には26歳になった。25歳を超えた時、スカウトからの見られ方が変わるのは現実としてある。それでも上村は「僕は全然あきらめてないですから」と言い切る。
「今年はちょっと、つかんだものがあるんですよ」
指名された同級生がくれた教訓…ベテラン又吉から授かった知恵
そう口にする上村がこれまでスカウトに評価してもらえたのは、大きく曲がるスライダーなど、変則投手として武器にしてきた部分だ。一方では、最速で140キロ台後半だった速球のスピードを上げたいともがいてきた。「スカウトにアピールできるものが変わると思うんです」。今年は少しずつ球速が上がり、自己最速の151キロにまで達した。何があったのか。
「言葉にするのは難しいんですが、体の動かし方ですね。フォームのタイミングが合って、下からの力を使えている感じがあるんです」
昨秋、同学年の牧野憲伸投手が、ドラフトで育成1位指名を受けて中日へ進み、今春には支配下へ駆け上がった。オイシックスでプレーしていた昨季、牧野は後半戦で先発からリリーフに転向して投球スタイルを見直し、毎月1キロずつ球速を上げて夢をかなえた。先発時代には140キロそこそこだった球速は、最速153キロに。この現実は上村に勇気を与えた。
牧野が残した教訓を上村は「やっぱり150キロ出ないと、話にならない時代なんだなと思わされましたし、もし変則で150キロを出せたらアピールにもなるなと思ったんです。あとはシーズン後半の8月、9月にインパクトを残すこと」と理解している。開幕直後に絶好調でも、調子が落ちていくようでは獲得するNPB側の印象に残らない。逆もしかりだ。韓国には行けないと思った理由もここにある。「育成の最下位でもいいので、かからないと始まらないんです」と切実な思いを口にする。
絶好のお手本もやってきた。今季途中に加入した、元ソフトバンクの又吉克樹投手は同じサイドスロー。「高めをもっと使ったほうがいい」とのアドバイスを受けた。上村も「低めはどうしてもバットに当てられてしまうんです」と投球の組み立てを変えてみると、高めの真っすぐで空振りやファウルを取れるようになった。さらに又吉から「マインドや考え方が本当に勉強になるんです」と大きな影響を受けている。
抑えはチームの勝敗に直結するポジション。時には敗戦の責任も背負わなくてはならない。上村は又吉から「負けという結果を次にどうつなげるか」を学んだという。
「攻めて出た結果なら、先を考えられる。逃げて歩かせたりした結果だと、何も残らないんです」
又吉もかつて独立リーグからドラフト指名を受け、NPBで通算503試合登板、FA移籍や日本代表入りも果たすという、まさに上村が目指す道を歩いた。毎日、隅々まで意識を行き渡らせての練習には驚かされた。「週初めはテンポを上げてしっかり汗をかいたり、いつ、何をすべきかというのが明確なんです」。野球の突き詰め方を日々、学んでいる。
2軍球団は、ドラフト指名に向けてもがく若い選手と、NPBに戻るために新たな自分を見つけようとするベテランが交わる場だ。上村は又吉の言動に見たプロ意識を「三上さん(元DeNA)や吉田さん(元オリックス)がいた時にも思ったんですけど」と、自分の中に取り入れている。この世界を生き抜いてきた選手たちの知恵は、下の世代へ確かに伝わっている。
(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)












