「THE ANSWER 陸上PLUS|STORY」 滋賀インターハイ(平和堂HATOスタジアム・7/30~8/5)
一度は陸上引退を考えた女子高生ハードラーが、一気に陸上界のニューヒロインに躍り出た。吉永優衣(長崎日大3年)が史上2人目となる女子100メートル&100メートル障害の2冠を達成。身長152センチと小柄な体でも活躍できることを証明した。(取材・文=THE ANSWER編集部・戸田 湧大)
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等間隔に設置された10台のハードル。もう立つことはないかもしれないと思ったレーンで、小さな影が跳ねた。
大会最終日の女子100メートル障害決勝、吉永は号砲が鳴った瞬間から一気に加速。徐々に周りとの差を広げ、8台目を跳んだ時にライバルの足音は聞こえなくなった。
「あ、勝ったな」
聞こえるのは大きな歓声と自らの呼吸だけ。向かい風2.1メートルながら13秒44の好タイムで駆け抜け、満開の笑顔を咲かせた。
滋賀の夏の主役になった。2日目の100メートル予選。高校歴代3位、7年ぶり大会新となる11秒47(追い風1.7メートル)を叩き出し、決勝はレース直前に脚がつるハプニングがありながら激戦を制した。
そして、本命のハードルで2冠を達成。「本当に頑張ったな……」。浮かべた笑顔の奥には、3年間の努力と挫折が見え隠れする。
全国中学校陸上100メートル障害で2位の実績を引っ提げ、強豪・長崎日大に進学。高2で初めてインターハイに出場した。
100メートル障害は11位、100メートルでは12位。思い描いた結果は得られず、2年間で積み上げたはずの自信はあっという間に崩れた。
「ハードル、辞めようかな……」
立ち直るには時間がかかり、高校での陸上引退も考えた。必死に前を向き、ハードルを跳び続けても記録は伸びない。冬を越えて今年の3月まで未来に悩んだ。
低身長に悩みも…「タイムも順位も狙えることを証明できた」
身長は152センチ。女傑シェリーアン・フレイザープライス(ジャマイカ)と同じサイズだが、ハードルでは不利な低身長も苦しむ要因の一つだった。
高さ83.8センチのハードルを越えるためには、より上方向に跳ぶ必要があり、前への推進力が落ちやすい。疲労が溜まると足が上がらなくなり、高身長な選手よりもバネや筋肉が必要になる。
身長を理由に逃げ出したくなる時もあった。そんな時、救ってくれたのはコーチの一言だった。
「100メートルの走力がある。技術を磨いたら絶対にまたトップレベルで戦えるようになる」
一度失った自信は取り戻せる。弱みを見つめるより、強みをさらに伸ばす道を選んだ。
ストライドを伸ばし、骨盤を動かすトレーニングを重ねた。一番の強みである股関節の可動域や、無駄な力を使わない強力なバネを強化。高校トップを目指せる身体を作り上げた。
この種目の2冠は、2007年の寺田明日香以来19年ぶり2人目。大会MVPに選出され、陸上界のスター候補に名乗りを上げた吉永は「ハードルは身長が高い人が活躍するイメージがあると思う。低くてもタイムも順位も狙えることを証明できたかな」と3年間の成長と努力に胸を張る。
大接戦で100メートル優勝が確定した瞬間には「きゃあああ」と歓喜して飛び跳ね、テレビカメラの前に立っても笑顔で母校の「N」ポーズを決めた天真爛漫な高校3年生。
「この結果をプレッシャーに感じず、もう一度日本一を目指して頑張っていきたい」
日本代表や世界など、遠い将来のことはまだ考えない。これからの人生に立ちはだかるハードルも、一つ一つ越えてみせる。
(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)












