マイナビオールスターゲーム2026
プロ野球、ヤクルトの古賀優大捕手が10年目で初めて球宴の舞台に立つ。ここまで今季は規定打席に届いていないものの、63試合出場の打率.267、1本塁打、28打点。特に際立つのが.373の得点圏打率だ。昨季の.121から大きく上昇している。前評判を覆して6月まで首位争いし、前半戦3位とAクラスターンを決めたチームの原動力となった。昨季に手にした打撃の新感触、思考の変化に迫った。
27歳の古賀が「マイナビオールスターゲーム2026」(28日東京ドーム、29日富山市民球場)の出場に実感を込めた。セ・リーグ捕手部門最多の36万1797票を集め、堂々ファン投票での選出となった。「ファンの方の投票があったからこそ選んでいただけた。ファンの方に感謝です。自分の1番の持ち味は守備、スローイングの部分だと思っている。パ・リーグの足の速い選手とマッチアップできる場面があれば、しっかりとアピールできたらと思います」と意気込んだ。昨季は盗塁阻止率.500をマークし、今季も.304を残している。
守備だけでなく、バットにも期待が集まる。チャンスで打席が回ってくれば、得点につながる――。そんな雰囲気を今季の古賀は漂わせている。6月28日中日戦ではプロ初のサヨナラ打を放つなど得点圏では、59打数22安打と驚異の勝負強さを発揮。昨季は苦しんだ得点圏で、何が変わったのか。
「あの打席っていうのは、考えてやってきたことが、そのまま出たんです。すごく大きかったんですよね」
「あの打席」とは…昨年6月20日オリックス戦(神宮)だ。7回2死一、二塁、山岡から中前打を放った。悩んだ末に、生み出した1本がターニングポイントとなった。
「それまで得点圏で30打席ぐらい打てなかったのですけど…その間も、いろんなことを考えながらやってきた。あの打席は、その考え、やってきたことを出せた1本だった。得点圏でも、こうやれば打てるな、と感じられた打席でした」
狙い球の絞り方、打席での意識、技術など、駆け引きに直結する核心的な部分は、「そこは…ちょっと」と言えない。ただメンタル面のぶれない意識がある。
「言える範囲のことならば、一番はマイナスのことを考えないってことですよね。とにかくいい方向に考える。とにかくプラスに、そして気負い過ぎず。というのを考えていますね」
チャンスで悔しい経験を重ね、試行錯誤した昨季が、今季の勝負強さにつながっている。打てなかった当時を振り返ると、「マイナスに考えていたことがなかったか、って言ったら嘘になっちゃう」。もちろん扇の要として、試合の流れを常に意識しながらグラウンドに立つ。得点圏で1本を打つ、逆に抑え込まれる意味も人一倍感じている。それでも、「もし打てなかったら…」と憂えても結果は変わらない。だからこそポジティブな結果だけをイメージする。シンプルだが、本質を突いた思考法が、勝負強さの土台になっている。
「野球は場面、状況でやるべきことは変わっていく。まったく同じ状況っていうことはないスポーツだと思います。そういった部分では、いろいろ考えながら、打席には立っている。どうやったらもっと良くなるかなっていうのは、考えながら日々打席に立っています」
楽天村林を洞察して得た気づき「かかと体重」
得点圏だけではない。昨季は打撃そのものにも、成長の大きな転機があった。
昨年の3月11日。楽天とのオープン戦(静岡・草薙球場)だった。試合中、ベンチで戦況を見つめていた古賀は、大松打撃コーチ(現2軍チーフ打撃コーチ)から不意に声をかけられた。
「すごいいい打ち方をしてるよ。あれだよ。見てみな」
何気ない一言だった。視線の先、右打席には楽天村林一輝内野手が立っていた。2回無死一塁の第1打席、小川の高め直球を逆方向にはじき返した。打球は右翼手のグラブに収まったが、強く捉えていた。「懐が広いな」。理想を重ねた。その「かかと体重」の打ち方に目を奪われた。
当時、外角球を「追いかけてしまう癖」の課題に向き合っていた。その対応力を身に付けることが打力向上、正捕手奪取に欠かせないと考えていた。
その日を境に、「かかと体重」の打撃理論で打つ村林は“研究対象”となった。時間を見つけては、動画を見返し、バットの出し方、変化球への対応などを分析。その打撃の裏にある理論を、自分なりに考察し、仮説を立て続けた。
6月17日からの楽天との交流戦。古賀はマスクを被りながら、打席に入る村林の足元にも注目した。映像で何度もチェックしていたが、実際に至近距離で見ると、よりはっきりと村林の意識を感じ取れた。
楽天との第3戦だった同19日の試合前。古賀は自ら村林のもとへ歩み寄った。「どういう意識でかかと体重をしているのですか?」。考え続ける中で膨らんだ疑問の数々をぶつけた。直接交わした会話で得た感覚、技術を1つずつ自分の打撃に落とし込んでいった。
かかと体重の打撃フォームは体が開きやすくなるリスクも伴う。それでも古賀にとっては、そのデメリットを上回るだけの価値がある打撃改造だった。
「最初はバランスを崩すこともあったのですけど、(かかと体重を)やっていく中で、だんだん外のボールも追いかけないでできるようになりましたし、インコースも懐をつくれるようになって窮屈に打たなくてよくなってきた」
手にするバットも村林と同じタイカップ型だ。契約するシュアプレイ社に依頼し、村林に近い形状のバットを製作してもらった。さらに細かく言えば、試合では操作性を重視して先端をくり抜いたモデル、練習ではくり抜いていないモデルと使い分けている。
大松コーチが手本に村林を挙げた理由
大松コーチは手本に村林を挙げたわけを、こう話していた。
「古賀はボールとの距離を詰めにいって打っていた。村林はボールとの距離を保ちながら打っているように感じた。古賀とは逆のアプローチで、どこにボールが来てもバットが出て、穴が少ないように見えた。だから取り入れてみてもいいのではないかと」
地道な積み重ねと、貪欲に学び続ける姿勢。そのすべてが、今の打撃につながっている。古賀は言う。
「かかと体重は、今の自分の打撃の原点でもある。毎日、同じコンディションで野球できることは絶対ないと思っていますし、今は自分の中で日々、いろいろ引き出しを増やしながら、やってる途中です。ただ、そこ(かかと体重)は大きく変えることなくやっていくのかなと思います」
オールスターが終われば、31日阪神戦(神宮)から後半戦が始まる。チームはここまで7月、6勝16敗。開幕からのスタートダッシュがあり、首位の阪神、巨人とは6.5ゲーム差の3位(44勝47敗1分け)につける。クライマックスシリーズ進出圏内の3位に踏みとどまるのはもちろん、その上にある優勝争いに絡んでいくためにも、これからが真価を問われる。
「前半戦はチーム全員で1つの勝ちに向かってやってきたからこそ、今この順位にいると思う。7月はチーム状況も少し苦しかったですけど、もう1度、オールスター明けからチーム一丸となって、なんとか阪神、巨人に食らいついていきたい」
今季からは選手会長の役目も担う。扇の要、そして勝負強く輝く打線のキーマンとしても、ツバメをけん引していく。
(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)












