マイナビオールスターゲーム2026
プロ野球の「マイナビオールスターゲーム2026」は28日に東京ドーム、29日に富山市民球場で行われる。ヤクルト増田珠外野手(27)が、プロ9年目で初出場となった。ここまで今季は75試合に出場し、打率.288、7本塁打、27打点とキャリアハイを残している。昨年末、人口約600人の離島で父の新たな人生を目にした。その背中は、飛躍のシーズンへ向かう増田の心に静かな火をともしていた。
海は穏やかで、透き通っていた。そこは故郷・長崎県の中でも初めて向かう場所だった。昨年の年の瀬、増田は同県・平戸港から小さなフェリーに揺られていた。行き先は玄界灘に浮かぶ度島(たくしま)。人口は約600人、周囲12キロの小さな島だった。
訪れた目的は、昨年春から度島で教壇に立つ父・照久さんに会うためだった。長年、長崎でテレビマンとして働いてきた父は、50代で教員へ転身。島で唯一の度島中学校(同校ホームページによると在籍13人)で、新たな人生を歩み始めていた。
「やっぱり50歳を過ぎて、新しいチャレンジをする精神って凄いですよね」
慣れ親しんだ仕事を離れ、未知の環境へ飛び込む決断。その姿は、プロ野球の世界で戦う増田にとっても大きな刺激になった。
島では父の教え子たちとも触れ合った。寡黙な印象が強かった父が、生徒たちに囲まれ、笑顔を見せていた。「楽しそうにしていたので。何て言えばいいんですかね……とにかく良かったですよね」。息子としての安堵と、尊敬が入り交じった。
「僕と父は真逆のタイプの人なんですよ」。幼い頃から父は多くを語る人ではなかった。テレビマンゆえ夜遅く、仕事へ向かう背中も何度も見てきた。当時から子供ながらに「我慢強さというか、粘り強さというか、凄いなって思っていたんですよね」。言葉ではなく、生き方で教えてくれる存在だった。
その父が今、新たな肩書で島の子どもたちと向き合っている。年齢を重ねても挑戦をやめない姿は、言葉以上の説得力を持って、増田の胸を熱くした。度島の滞在は日帰りの弾丸ツアーだったが、今季につながるエネルギッシュな経験となった。
オフの肉体改造も成功
目に焼き付けた父の姿だけでなく、充実のオフを過ごして今季につなげた。「肉体改造」に成功し、スイングの力強さが増した。前半戦を終えて、規定には27打席足りないが、打率.288、7本塁打、27打点。14試合で4番に座るなどクリーンアップでの起用も増え、チームの3位ターンに大きく貢献している。
今、体重は昨季から約5キロ増の93キロだ。「右バッターでスタメンでしっかり出ると考えた時に、長打を打てる必要がある」と考え、強化に取り組んだ。昨季は1軍にフル同行して75試合に出場。代打打率.350(40打数14安打)で右の代打の切り札として存在感を示し、また代走、一塁、外野の守備固めなど幅広い起用法でも応えた。ただ、その立場から殻を破って、スタメンに名を連ねるには打力向上が欠かせないと強く感じていた。
同時に飛躍の要因には「これまでの積み重ね」を強調した。「ヤクルト入ってきてからずっと続けてきたことが、少しずつ形になってきてるのかなっていうのは感じます」。日々の小さな努力の積み重ねこそが、成長への近道だと強く認識している。
故郷長崎から高校は全国屈指の名門・横浜に進み、1年夏からレギュラーをつかんだ。18年にドラフト3位でソフトバンク入りしたが、6年目だった23年オフに戦力外を経験した。他球団からのオファーを待つ間は、別の世界に進む道も考えたこともある。
それでもヤクルトからオファーが届き、再びチャンスをつかんだ。ついに加入3年目でレギュラーの立場をつかみつつある。新たなステージへと成長を続けている。50代で新たな人生に踏み出した父の生き方は、飛躍を目指す増田の背中を静かに押してくれた。
元ソフトバンクの「熱男」こと松田宣浩氏を慕い、本塁打を放った後は“継承”した「増男」ポーズを決めるなどチームのムードメーカーでもある。オールスターにはファン投票で44万4882票を集め、阪神森下、中日細川に次ぐセ・リーグ外野手部門の3位で選出された。「1度戦力外を経験してから、このような舞台に立てることをとても嬉しく思います。このようなチャンスを与えてくださったファンの皆さまに感謝したいです」と増田。さまざまな人の思いを感じながら、初めての夢舞台に立つ。
(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)












