「THE ANSWER 陸上PRUS」 滋賀インターハイ――平和堂HATOスタジアム・7/30~8/4
中学時代からのライバル2人が、インターハイ史に残る名勝負を演じた。大会6日目、男子4×100メートルリレー決勝、優勝争いはアンカー勝負に。市立船橋・片山瑛太(3年)と洛南・土井カハル(3年)。中3の全中決勝から競い合い、最後の夏にドラマみたいな40秒を駆けた。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
スタンドの歓声は、もう耳に入らない。
号砲から30秒。極限まで集中し、その時を待つ。そして、隣同士でバトンを受けた2人が同時に駆け出した。
先に前に出たのは、土井だった。
3年前の夏をよく覚えている。全中100メートル決勝。共に走ったのが片山だ。土井(大阪・枚方一中)が4着、片山(千葉・鎌ヶ谷二中)が優勝。高校は京都と千葉、東西の名門に分かれ、何度も対戦した。
今大会は100メートル決勝で土井は4着、片山が2着。
「この3年間、遠い場所ではあるけど、刺激し合いながら……瑛太が僕のことを刺激を受ける相手と思っていたか分からないけど、少なくとも僕は良きライバルと思っていた」
清水空跳、菅野翔唯らが揃う世代の先頭を走ってきた戦友。そんな相手と最後のインターハイ、4×100メートルリレー決勝、隣同士のレーンで同時にバトンがやってくる。「ドラマみたいと思った」。心が震えた。
最強洛南の名にかけて。
抜かさせるもんか、絶対に。
打倒・洛南へ、イチかバチかで賭けた「攻めのバトン」
片山は、幸せを感じていた。
「全中決勝以来、今までずっと走って、勝って負けて……を繰り返した。そんな相手とここでまた走れてうれしくて」
当時のファイナリストで今大会100メートル決勝に立ったのは2人だけ。
中学の逸材が、高校で才能を伸ばし続けるのが難しいかは誰よりも自分たちが知っている。
市立船橋は3年前に初優勝して以来、4継のタイトルから遠ざかった。昨年は大会新で優勝した洛南に敗れ、4位。エースとして誓った。
「リレーでインターハイ優勝する」
そう決意し、冬から血の滲む努力で追い込んできた。
今大会は2位の100メートルに続き、前日の200メートルも2位。「ここはなんとしても獲る」。予選は洛南がダントツの39秒68で通過し、勝つにはバトンで攻めるしかない。3人が、接戦で繋いでくれた。
「自分がアンカー勝負で勝ち切る。それを目標にしていた。完全にレースプラン通りのレースを1走から3走の仲間のみんながやってくれて……」
全中王者の名にかけて。
抜かしてやる、絶対に。
勝負を超えた先で…ミックスゾーンで抱き合った2人が交わした「ありがとう!」
逃げる土井、追う片山。
片山が鋭い加速で食らいつく。20メートルほどで肩が並ぶ。だが、土井は譲らない。腕を振り、脚を回し、懸命に前へ前へ。
残り50メートル。歓声は次第に、悲鳴にも似たものに変わっていく。
最後の追い込みで片山がわずかに前へ出る。土井も粘る。2人は、ほとんど同時にフィニッシュラインに飛び込んだ。
電光掲示板に表示されたのは――。
「1着 市立船橋 39秒60」
「2着 洛南 39秒72」
わずか0秒12差で決着。3年ぶりの王座奪還。勝ったのは市立船橋だった。でも、この40秒に敗者はいない。
彦根城が見下ろすスタジアムで、ナイター照明に照らされたのは健闘を称え合う片山と土井の笑顔だった。
ミックスゾーン。引き揚げてきた2人は互いを見つけ、どちらからともなく抱き合った。
「いや、まじでえぐい!」(土井)
「楽しかった! 最高!」(片山)
「環境は違えど、全中決勝から3年間かけて高校のトップに戻ってきた。お互いに『よく頑張ったね』と」と片山は笑い、土井は「これで瑛太との勝負が終わったわけではない。ここからまたぶつかり合うことがある。これからも刺激し合っていきたい」と誓った。
2人を繋いでいたのはリスペクト、友情、そしてもうひとつ。最後に握手を交わし、掛け合った言葉に3年間が滲んだ。
「ありがとう!」
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)












