「ネーションズチャンピオンシップ」世界の強豪との戦いから浮かぶ課題と収穫を検証
ラグビー日本代表はフランス代表に15-42で敗れて「ネーションズチャンピオンシップ」のサザンシリーズを終えた。来年のワールドカップ(W杯)でも対戦する相手に6トライを奪われる完敗で、大会成績は1勝2敗、勝ち点4の南半球グループ6チーム中5位。世界のトップ12か国が競い合う新機軸の大会は秋のノーザンシリーズ、そして最終順位を決めるファイナルウイークエンドを待つことになるが、ここまでの3連戦は来年10月に開幕するW杯オーストラリア大会へ向けた強化のためには貴重な試金石となった。世界トップクラスの強豪との戦いから浮かび上がる日本代表の課題と収穫、そしてW杯へ向けたセレクションも踏まえたポジション別の選手のパフォーマンスを振り返る。(取材・文=吉田 宏)
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W杯“前哨戦”に国立競技場に集まった5万2632人のファンの期待には応えられなかった。15-42は言い訳なしの完敗。世界4位の一軍半に、牙を剥く前にねじ伏せられた印象だ。
エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は敗者会見で、敗因を明確に指摘した。
「学びの多かった試合だった。2つのエリアで完敗しました。それはモールとキックコンテストで完全にやられてしまったところです。われわれは今後、この部分で策を持たないといけない」
フランスは、先発15人の中で1桁キャップは7人、30キャップ以上が5人という布陣。冒頭で一軍半とは書いたが、それ以上に若い。総キャップ270は、日本の216キャップと大きく変わらない。1桁キャップ8人、30キャップ以上4人も、経験値だけを見れば双方大差はなかったが、80分間でリードは前半15分からのわずか4分間のみというゲームだった。
開始2分。いきなりの洗礼を浴びた。自分たちの反則(オフフィート)からのフランスのラインアウトを一気に押し込まれて先制トライを許す。1トライは返したが、19分のトライもラインアウトモールからの右展開で献上。23分にもラインアウトから押し込まれ、29分も再びラインアウト起点の右展開でゴールラインをこじ開けられた。後半1分のトライはキックを交えた展開力から奪われたが、11分もオフサイドの反則からのラインアウト→モールでスコアされた。
結果的に許した6トライ中5本はモールから奪われたが、敵将ファビアン・ガルティエHCは「戦術的にはラインアウト、スクラムにフォーカスした試合だったが、選手たちは蒸し暑い気候にも順応していい結果を出せた」と予定調和のスコアの取り方、試合結果だったことを印象付けた。
反則が起点のモールからここまでトライを許すとテストマッチでは勝ち目はないが、空中戦でもイタリア相手には新鋭SO伊藤龍之介(明治大4年)からのキックをWTB植田和磨(コベルコ神戸スティーラーズ)らのチェイスでプレッシャーをかけて優位な展開に持ち込めたものの、フランスのアウトサイドBKのボール捕球力、ファンブルボールへの反応、判断の良さで、期待したレベルではキックを攻撃に生かせなかった。
エディーの指摘通り敗因は明らかだったが、厳しい現実を突きつけられたのは、掲げる“超速ラグビー”が威力を見せられなかったことだ。前半15分のトライはSO伊藤の思い切りのいいキックカウンターからCTBディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)―WTB石田吉平(横浜キヤノンイーグルス)と繋いでわずか12秒で仕留め、「らしさ」を印象付けた。だが、キックオフから日本のライン攻撃を見ていても、接点でのコンテストで自分たちの求めるスピードでの球出しが十分に出来ていないのは、前週のアイルランド戦と同じだった。日本が理想とするようなテンポ、モメンタム(勢い)を作り出せず、ラックでの揉みあいを見切られて次の防御ラインに備える相手を崩し切れないままの攻撃が続いた。自分たちの速さで相手を慌てさせた時間帯は、あまりに断片的すぎた。
皮肉なことに、アイルランド、フランスに連敗する中で、日本は世界ランキングを大会前の12位から11位、今週月曜には10位と上げている。勿論これはランク上位が相次いで敗れての“地盤沈下”の恩恵で、喜んでばかりいられない。世界10位前後クラスと渡り合えるのは、今回のイタリア(対戦時のランク10位)戦はもとより、昨秋のウェールズ戦(同12位、23-24)、ジョージア戦(同11位、25-23)の結果が証明しているが、トップ5クラスを相手には、現状の集散、選手が何度も口にする「エフォート」ではゲームをオーガナイズ出来ていない。ゴールド・エフォート(最上級の労力)を出すためには、ファーストコンタクトでフランス戦以上のフィジカリティー、ファイトを見せて、ボールコントロール、ボディーコントロールを自分たちで制御出来なければ、この負け試合のように概ね攻守で重圧を掛けられながらの戦いを強いられることになる。
「超速」による攻撃力の改善は、チーム、コーチへの夏の宿題だ。フランスからの“ダメ出し”を、8月に再開するテストマッチシリーズで、どう改善して、スコアに反映させるかが「次」の挑戦になる。繰り返しになるが、明らかなのは世界10位のイタリアには勝てたが、世界3位のアイルランドに競り負け、同4位ながら、今大会では勢いのあったフランスには歯が立たないというのが現実。8月に2試合を行うオーストラリアは現在ランク8位。実力的には、さらに上位を窺えるポテンシャルを持つ相手だけに、フランスからの学びである「モール防御」「キックコンテスト」そして「超速」を使って勝ち切りたい相手だ。
では、3試合での選手のパフォーマンスはどうだったのか。来年10月へ向けた強化の進捗を計る“ものさし”として、完敗のフランス戦までの各ポジション別にその出来栄えを見ていくと、チームの現状と来年10月へ向けた顔ぶれも浮かび上がってくる。
PR/HOは収穫ある3連戦 LOは世界トップクラスの3枚が揃う
<PR/HO>
ポジション順に見ていくと、PRとHOは、かなり収穫のある3連戦だった。進化を感じさせたのは、スクラムとラインアウト。勝敗にも影響するセットプレーだが、スクラムの成功率をみるとイタリア戦の89%(失敗1回)以外はアイルランド戦、フランス戦では100%というパーフェクトな数値を残している。フロントローで主力となったのは、岡部崇人(横浜E)、竹内柊平(東京サントリーサンゴリアス)の両PRと原田衛(BL東京)のトリオ。PR2人は元来スクラムの強さよりも機動力が武器の選手だが、先発したイタリア戦、アイルランド戦と、ヨーロッパでもスクラムに拘りを持つ相手と組み合えたのは評価していいだろう。
ここは、元ニュージランド代表PRとして108キャップを誇るオーウェン・フランクス・アシスタントコーチの指導に負う部分は大きい。現役引退から本格的なコーチ経験は浅いが、世界トップレベルで組み合ってきた経験値を活かしながらも、日本選手特有の低さ、FW8人が相手以上にパッケージを固めて押していくメカニズム、そしてスクラムの優劣のキーになる組み合う瞬間のヒットスピードと取り組んできた。
低さに関しては、試合中や練習でスクラムを組む時にも選手が「シバ=芝」という合言葉を掛け合っているが、これは芝生に足が着くような低さと8人のパックの強さを意識したキーワードだ。個人のパワー、経験値では劣ったとしても、組織で対抗しようという意識付けが選手にも浸透することで、さらに一体感のあるスクラムを実現している。後で触れる2列目に身長200cmクラスの選手が並ぶことも、スクラムで重要な2列目からの押しという点では大きなプラス要素だ。
原田は、巨漢揃いのスーパーラグビーのモアナパシフィカで1シーズン揉まれてフィジカリティーを高め、低い姿勢でのコンタクトにも磨きを掛けて帰って来た。この“ファーストセット”を追走するのが、フランス戦で先発出場したPR大塚壮二郎(関西学院大4年)、為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、そしてHO江良颯(同)だ。大塚は、まだ大学生ながらフィールドプレー(コンタクト)、スクラム双方で178cm、110kgというサイズ以上のフィジカルの強さを印象付ける。
完敗に終わったフランス戦でも、大塚は25分に中盤のFW戦で194cm、104kgのFLレニ・ヌシ、203cm、110kgのLOフロリアン・ヴェラアグに当たり負けせず前進して、36分の敵陣ゴール前の肉弾戦では、ラックサイドを突いた江良をサポートして自らデビュー戦トライをマークするなど高いポテンシャルを証明した。本人は「(観衆)5万人って結構少ないなと感じました。あのトライは江良さんのだと思うので何も感じていません。モールについては、相手に分析されていましたね」と代表デビューでの淡々とした口調に大物ぶりを感じさせた。エディーも会見では日本語で「素晴らしい。超速ラグビー(を見せた)。めちゃ素晴らしい」と評価したように、ポテンシャルは間違いない。学生という立場で来年10月までにどこまでインターナショナルレベルでの経験値を伸ばせるかが注目される。
江良については、ここまでの国内リーグでのパフォーマンス、そして昨季代表でのプレーぶりで評価は揺るぎないものになりつつある。「追走」という表現よりもむしろ原田に肉迫しているという評価が適切かも知れない。
その一方で、双方スクラム成功率100%だったフランス戦では、数字に残らない課題も見られた。29分の自陣での相手ボールスクラムではコラプシング(スクラムを崩す反則)で相手がアドバンテージを得るなど、データにカウントされない「失敗」や、かなり押し込まれた場面も目についた。この苦戦も、先に触れた2列目からの押しで、逆に重圧を受けていた印象だ。一度組み合った後に、2列目からの再プッシュで押し込められているスクラムの状態を見ると、相手の2、3列目からの押し込みをどう受け止め、対応していくかは今後の課題になるだろう。
夏のゲームでは、どのチームも国内リーグなどの影響で万全の準備を組めていない印象もあった。秋に対戦するイングランドやスコットランドとのスクラム戦で、どこまで大型選手が揃う相手の2、3列目からの押しも含めたスクラム戦で対抗できるかも、この先の進化のための課題になるだろう。
<LO>
2列目(LO)については、この3連戦でも主力を張った201cmのワーナー・ディアンズ主将(BL東京)、208cmのハリー・ホッキングス(東京SG)に、ベンチスタートの202cmのマイケル・ストーバーグ(BL東京)という世界トップクラスの高さを誇る3枚が揃う。この3人に、フランス戦はFLで先発した198cmのエセイ・ハアンガナ、同じくNo8を務めた195cmのジャック・コーネルセン(埼玉WK)らが3列との兼務で絡んでくる。イタリア戦から順に100%、92%(ミス1回)、91%(同)というラインアウト成功率が、彼らの高さの“恩恵”を指し示している。強いて「足りないもの」を挙げるとすると、アイルランド戦、そしてとりわけフランス戦で感じた地上戦でのパワーゲームでのフィジカリティーだ。
高さ、重さともにワールドクラスのLO勢だが、重厚さよりも日本代表ならではの機動力にも強みを持つタイプの選手が揃う。ワーナーが、スーパーラグビーでの経験でボールキャリーの力強さに成長は感じさせるが、フランス代表で先発した142kgのエマニュエル・メアフーのような厚みと馬力で相手を押し込んでくる、局地戦に圧倒的な力を発揮するタイプは今の日本代表にはいない。ラスト10分で突き離されたアイルランドにも、サイズこそ193cm、113kgながら肉弾戦で抜群のしぶとさ、激しさを見せるタイグ・バーンのような仕事人が日本を苦しめた。
この厚みや重さ、パワーを日本代表が必要とするのか、それとも現行のワールドクラスの高さを誇りながらワークレートやスピードも併せ持つ機動系LO勢で勝負をしていくのか。ここは指揮官の決断次第だが、エディーがフランス戦の敗因と指摘したモールを見ても、このフィジカルバトルでの重みと押し込む力の差をどう埋めていくかは大きな課題でもある。W杯登録の33人は、どのポジションも潤沢なメンバー編成は難しい枠数ではあるが、ここまでに挙げた200cm台の3人と3列も兼務するメンバーに加えて、怪我で代表不参加となったルアン・ボタ(S東京ベイ)のようなフィジカル勝負に圧倒的な強さを持つ駒を準備するのも一考に値する。
バックローで存在感を増しているFLベン・ガンター
<FL/No8>
FL、No8で構成されるバックロー(FW第3列)は、3試合を通じてFLベン・ガンター(埼玉WK)が存在感を増している。ここまで怪我が多く、余りあるパワーで反則も多かったが、昨秋のテストシリーズ以降のパフォーマンスは目を見張る。今回の3連戦では毎試合両チームトップのタックル数をマークするなど体を張り続けた。消耗も相手との激突も多いポジションながら、ここまでの3試合中2試合をフル出場して、3試合=240分で225分というプレータイムを叩き出すのも、エディーの信頼の表れだ。
ガンターがチーム内で務める役割は、リーチマイケル(BL東京)が長く担ってきた。チームの中で先頭に立って体を張ってきたのがリーチだ。ガンターが先発で出場し続ける一方で、この37歳のベテランがリザーブに置かれているのも象徴的だが、リーチ自身の取り組む姿勢が興味深い。
「今のチームはすごく良くて、世界でいちばんデカいんじゃないかという中で勝負している。僕としては、与えられた役割をやることが大事で、20番の職人になりたい。(ピッチに)入った時にゴールド(エフォート)を探しまくって、とにかく運動量、タックルだったりボールキャリー、前に出る、声を出すことを続ける。短い出場時間の中でどれだけ出来るか。エディーはインパクトプレーヤー(途中出場選手)の重要性をいま高めていて、そこは数値もいいし、相手を上回れていると思う」
2008年の代表入りから長らく中心選手として活躍してきたリーチ自身が、自分の役割の変化を理解して新たな挑戦に取り組んでいることがバックローの厚みを物語る。このテストマッチ3連戦でリーチはリザーブ選手(20番)として、後半出場して防御を中心にワークレートの高さを発揮し続けていた。フランス戦では、後半17分の自陣ゴール前の防御でタックルから、そのままボールを奪い獲るジャッカルを決めると、残り4分の自陣での防御でも、ラックでボールに絡んでPKを獲得するなど、鬼気迫るタックル、ジャッカルを繰り広げた。途中出場での限られた時間でのプレーではあるが、1分間に換算したタックル数を見ると、イタリア戦、フランス戦でトップの数値を叩き出し、自身のパフォーマンスでチームが唱える「ゴールド・エフォート」を体現し続ける。
疲労が重なるチームを終盤ブーストさせる役割に徹するリーチだが、新たな仕事のための努力も惜しまない。
「スタメンと20番では準備の仕方が違っていて、例えば食事の摂り方も違う。後半にピッチに出て行くので、30分くらい遅らせて、(スポーツ競技用栄養補給の)ゼリーやグミ、カフェインの採り方も気を付けています。もっとハードワークしたいので、体作りも、もっとシャープにして、(同時に)サイズも上げていきたい。次の合宿までにすこし重くして、今は112、3kgだけど115くらいにしたい」
後半に入ってから相手にインパクトを与えるための取り組みは流石ベテランだが、チームのパフォーマンスには厳しい視点も持つ。
「アイルランド戦以外は早い時間帯にトライをされている。そこは、練習でもっと(対策を)やってもいいかなと思いますね。スタートをどれだけ大事にするかというのはね。トライを取られたから、じゃあ頑張ろうではダメだし、立ち上がりをもっと大事にしないといけない」
リーチは、フランス戦を終えて代表キャップ数95。98キャップという大野均の歴代最多の更新、そして初の3桁キャップが刻々と近づくが、本人は「全く気にしてない」と言い続ける。この男らしい謙虚さもあるのだが、それ以上にこの10月で38歳、来年のW杯は、サモアとの第1戦の4日後には39歳という年齢との戦いを考えれば、1試合1試合に集中、注力する姿勢が大切だろう。
当然、パフォーマンス次第ではリーチとガンターがバックローで先発する選択肢も十分にあるが、ガンターとコンビを組むもう1人のFLは、運動量とスピードで下川甲嗣(東京SG)が安定感を印象付ける。試合中の怪我、消耗も多いバックローの特質を考えても、メンバーに厚みを持たせたいポジションではあるが、この夏のシリーズはコンディションを理由に合宿不参加のタイラー・ポール(S東京ベイ)、前回W杯でもスピード、キャリー能力を武器に活躍したファカタヴァアマト(BR東京)らが、秋のテストシリーズへ向けて復帰してくればメンバーの厚みも増してくる。
No8は、今回のチャンピオンシップではコーネルセンが務めたが、ワークレート、フィジカリティーと持ち味を見せるワイサケ・ララトゥブア(栃木ホンダヒート)、リーチらの起用も考えられる。その中で、LO同様に、理想を言えばもう一枚パンチのあるカードも欲しいところだ。セットやブレークダウンからゲインラインを引っ張り上げるようなキャリーが武器のパワーハウス系の8番だ。2015年W杯でエディーが抜擢したアマナキ・レレイマフィタイプのパワーとスピードを併せ持った8番が理想だが、パワーなら世界クラスのテビタ・タタフ(東京SG)が「超速」への適応力とコンディショニングで苦しんでいる。現行の機動力とワークレートの高い選手中心の編成で戦うのか、それともスピードの中にも“核”となるようなパワーハウスを投入するのか。ここは、指揮官の決意とチーム作りの手腕を見ていくしかない。
HB団は顔ぶれが固まりつつある SHは齋藤が存在感、SOは伊藤が収穫
<SH/SO>
BKに目を向けると、SHとSOが組むHB団は顔ぶれが固まりつつある。9番はフランスでの2シーズンを終えた齋藤直人(東京SG)の存在感、評価が揺るぎない。今回のヨーロッパ勢との3連戦でとりわけ重要さを印象付けたSHからのキックで、インターナショナルの基準を見せていた。同時に、ゲームをコントロールするパス捌きでラインを動かし存在感を見せた。
ゲームをコントロールしていくというSHの重責でも、フランスでの経験値をパフォーマンスに還元した齋藤だったが、目を見張ったのは防御力の進化だった。イタリア戦での200cmを超える大型LOへのタックルなど、積極的に、とりわけピンチと判断しての果敢なタックルで、何度もチームの窮地を救っていた。従来、SHはフィジカル面での負担を減らすために不要なコンタクトを避ける傾向もあった。だが、日本代表が、齋藤がフランスでプレーしてきたスタッド・トゥールーザンと同じ、SHでも防御ラインに並ぶ防御システムを取り入れていることで、齋藤の持ち味も生かされている。
エディーの「9番」評価は、この齋藤と、怪我で代表を離脱中ながら俊敏さと圧倒的なスピードを持つ藤原忍(S東京ベイ)の2人が抜きんでている。興味深いのは、来年のW杯でSHを何人選ぶのかだ。特殊な技術が必要の1人ポジションのSHは、従来のW杯では怪我などのアクシデントも踏まえて3枠を用意するのがセオリーだ。来年もSH3人態勢は十分あり得るのだが、フランス戦ではエディーの“実験”が注目された。控えSHを入れずに、SHは齋藤一人。万が一の時は、SO伊藤が務める布陣で準備していた。世界4位の強豪との対戦で、控えSHが背負うはずの21番を付けていたのはFLティアナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ)だった。
これは、明らかにベンチメンバー8人に、どのポジションの選手を入れるかのテストだった。通常ならリザーブ8人の配分はFW5人、BK3人だが、エディーは6-2で3試合に臨んだ。W杯本番まで1年という時点で、メンバー、取り分け控え選手8人の配分をシミュレーションしていたと考えていいだろう。顔ぶれは変化したが、ベンチのBK選手2人に、FLが本職のティアナン・コストリーがWTB/CTB兼務で起用されていた。結果的にアイルランド戦では前半でCTB2人を怪我で欠き、不慣れなコストリーとサム・グリーン(前静岡BR)が代役を務めた(先発WTBメイン平もCTBをカバー)が、フランス戦ではベンチにSH抜きのメンバリングを敷いてきたのだ。
勿論、こんなメンバー表上での“冒険”は、適材適所を試し、さらに消耗や怪我の多いFW勢をいかにより多くのベンチメンバーに入れてカバーに厚みを持たせることが出来るかを、怪我などのアクシデントもあるゲームで試したいという狙いがあったはずだ。この先のテストマッチで、どんなベンチ構成を採るかは判らないが、この3試合から得た結論は来年10月のW杯を待つことになる。
いずれにせよ、現状の「9番」の順位付けは2番手までは確定濃厚だ。残る「0.5」枠を、イタリア戦で代表デビューを果たした上村樹輝(神戸S)、スコッド入りの渡邊晴斗(近畿大4年)、北條拓郎(栃木H)、そして昨季までの代表経験者の北村瞬太郎(静岡BR)らが争う展開だ。
SOに関しては、伊藤が「若手」という位置づけを飛び越えて、代表司令塔としての資質を輝かせたのは大きな収穫だった。実戦でのパフォーマンス以前の段階で、エディーがこれからのSOに求めるものとして「今までの決められたストラクチャーの中だけでプレーするのではなく、相手防御ラインにしっかりと仕掛けて行ける10番が必要。これがジャパンらしいプレーに繋がるはず」と語っていたが、その要求に100点とは言えないまでも21歳の大学生としては十分に応えたのが、マオリ・オールブラックス戦からの4試合のパフォーマンスだった。
手術のために代表を長期離脱する李承信(神戸S)の不在を利用して、伊藤に経験値を積ませる目論見だったはずだが、自らボールを持って仕掛けられることで、アタックライン自体も前に出ることが出来るのが伊藤の最大の持ち味。そこに、同世代のWTB植田らとのコンビネーションの高いアグレッシブなキックや、スペースを捉える視野と、ゲームメーカーに求められる資質を存分に発揮する。
伊藤にとって来年のW杯へ向けた課題があるとすれば、PR大塚同様に、学生として過ごす時間の中で、どこまで代表での国際ステージでの経験値を積み上げていけるかだろう。この経験値の有無でW杯行きの当落が決まるなどという短絡的なはなしではなく、まだまだ不十分な国際経験をさらに上乗せして“本番”のピッチに立つことが、この才気あふれる若き司令塔のポテンシャルをさらに輝かせるためには重要なのだ。
CTB、WTB/FBの現状は? 世界8位ワラビーズとの80分は“テスト”の戦いに
<CTB>
CTBに関しては、バックローでのガンター同様にライリーの存在感が際立っている。シンプルに相手を抜き合うスピードも抜群だが、ミッドフィールダーとしての戦術的なショートパントへの反応や加速力、大外に立ってのキックパスレシーバーとしても魅力を発散する。不安材料を挙げるなら、対戦相手が日本対策を考えれば、このライリーおよびFW戦でのガンターをいかにマークして、動かせないようにしてくるのは間違いないだろう。だからこそ、ライリーをデコイに使うプランB、Cを用意する必要がある。
同じCTBでコンビを組んだ廣瀬雄也(S東京ベイ)が、イタリア戦でようやくテストレベルでボールドライバーとしての存在感を見せ始めた中で負傷離脱したのは悔やまれるが、コンディショニングに苦しんできたサミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)が、フランス戦で2年ぶりにテストマッチに復帰。まだ試し運転の中で、強みのボールキャリー(ボールを前に運んだ回数)で両チームトップの15回をマークするなど奮闘したが、現状ではまだライリーの“相棒”もカバーも確立されていない。
理想としては、スピードが脅威のライリーをアウトサイドで使って、ボールとラインを動かせるインサイドCTBを置くのがベストかと思うが、この12番のセレクションがメンバー編成上の“ミッシングリンク”にならないように、廣瀬、トゥア、そして候補止まりのロブ・トンプソン(BL東京)らも含めて、8月から11月末までのテストシリーズで絞り込んでいく必要があるだろう。
<WTB/FB>
アウトサイドBK(WTB、FB)は主要な顔ぶれは見えてきている。WTBでは、ここまでの3試合でもメンバーリストに並んだ石田、植田、そしてしなやかな走りでユーティリティーBKとしての期待も高いメイン平(BR東京)らを軸に、コンディション理由でメンバー、スコッドを外れるジョネ・ナイカブラ(BL東京)、木田晴斗(S東京ベイ)らがメンバー争いを展開する。FBは、この3試合で初めてスターターとしてプレーした松永拓朗、昨季スピードをアピールした矢崎由高(早稲田大4年)、そしてフランス戦で代表デビューを果たした上ノ坊駿介(神戸S)、経験値のあるグリーンらがSOのカバーも担いながら「15番」争いを演じる。
エディーが今季始動前にW杯へ向けたセレクションについて「今季で80%は固めたい」と話していたが、この3試合の顔ぶれを見ていると、概ね目標に近いメンバー固めは進んでいるようだ。これから選ばれていく(限られた)選手も、生き残ろうとしている選手も重視されるのは、指揮官が頻繁に口にする「オフ・ザ・ボール」、つまりボールを持っていない時の働きぶり、判断だ。このエリアの仕事ぶりが「エフォート」にも直結するのは明らかだ。
まだまだ、このオフ・ザ・ボールでの判断やプレーは、ここまで2連敗を喫した世界トップ5の選手には及ばない現実も味わわされた。フランスからも、こっぴどく教えられたモールとハイボールのファイト、そしてフィジカルの格差を、どう修正し、克服していくのか。名将ジョー・シュミットからレス・キスに政権交代したばかりの世界8位ワラビーズとの80分は、まさに“テスト”の戦いになる。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。












