WTTチャンピオンズ横浜
卓球のワールドテーブルテニス(WTT)チャンピオンズ横浜大会第5日は8日、横浜BUNTAIで行われた。男子シングルス準々決勝で、世界ランク3位の松島輝空(フリー)が同9位のチャン・ウジン(韓国)を4-3のフルゲームで破り、4強入りを決めた。最終第7ゲームは4-8の窮地から7連続ポイントを挙げるなど何度も劣勢を跳ね返す大逆転劇。驚異的な粘りを支えたのは、森薗政崇コーチの言葉だった。勝負どころで、19歳を奮い立たせたものは何だったのか――。勝負を分けた3つの場面を振り返る。
最終第7ゲーム。松島が怒涛の7連続ポイントで勝利を決めると、森薗コーチは天井を見上げた。こみ上げるものがあった。4-8と追い込まれた窮地からの大逆転。視線の先で渾身のガッツポーズを決める19歳を、誇らしく、そして凄いと思った。ベンチに戻ってきた松島の背中をポンとたたいた。
試合後、森薗コーチは「正直、4-8になった時、これは終わったかなって、僕もふと勝負を諦めてしまいそうな感じになったんです。でも盛り返した。僕の支えられる範疇を超えた先の勝負でした。ずっと張本が日本を引っ張ってきた中で今、追い付こうと頑張っている松島が、プレッシャーの中で勝ち切れた。それが一番の収穫」としみじみ言った。
何度も何度も窮地に陥った。韓国エースの堅守、YGサーブ(逆横回転をかけるフォアサーブ)に苦しんだ。森薗コーチは時に細かな技術を伝え、時に気持ちを奮い立たせる言葉をかけた。局面によって、絶妙に言葉を使い分けながら、松島の勝機を探った。
(1)1-11で落とした第3ゲーム終了後
「どれだけリードされてもやることが見つかれば、すぐ逆転できるよ」
第3ゲームの松島は完全にほんろうされていた。奪ったのはわずか1ポイント。11点を失う間に、打開策を見いだせないままゲームを落とした。森薗コーチが最初に考えたのは、松島を「安心」させることだった。なぜポイントを奪われているのか。1つ1つのプレーを整理して伝え、漠然とした不安を取り除いていった。
苦しんだのは、相手の堅守だった。「何回打っても返されるプレッシャーで、こちらが打ちミスをする展開が多かった。こうなったら、恐れずに打ち切るしかない。松島は本当に頭のいい選手なので、僕が未来を予測していろいろ言うよりは、現状を伝えてあげた方が、自分でいい選択ができる選手。なので、そういう風に心がけて声掛けしました」。1-11という一方的なスコア。それでも、やるべきことさえ見つかれば巻き返せる。そう松島に思わせた。
「落としたら終わりだよ」かけた発破
(2)第4ゲーム7-8でのタイムアウト
「このゲームを落としたら終わりだよ。ここしかないよ」
1-11で落とした第3ゲーム後とは一転、今度は感情を込めて発破をかけた。その上で、ショートサーブから強打につなげて勝負する意識を伝えた。森薗コーチ自身、「タイムアウトのタイミング的に少し遅いかな」と感じていたのも事実。それでも、その言葉に松島が応えた。タイムアウト明けから怒涛の4連続ポイント。第4ゲームを奪い切り、ゲームカウント2-2のタイに戻した。
(3)4-8から7連続ポイントを奪った最終ゲーム、その直前
「やるしかないよ」
ショートサーブ、チキータ(手首を返す攻撃的なレシーブ)はフォアへ強く打つなど、やるべき戦術を端的に確認した。そして最後は「やるしかないよね」と送り出した。森薗コーチは「あそこまでいくと、お互いにやることは決まっている。それを怖がらずにできるかの勝負」と振り返る。やるべきことをあらためて整理し、最後に求めたのは、迷わず実行する覚悟。そして気持ちだった。
松島と同じサウスポーの森薗コーチは、2017年世界選手権男子ダブルスで銀メダルに輝くなど、日本代表として活躍した。現在は松島のコーチとして海外遠征にも同行。補食用のおにぎりを握ることもあるなど、技術面にとどまらず、あらゆる面から19歳の成長を支えている。
松島は試合を「正直、負け試合だった」と振り返った。そして、森薗コーチへの感謝を述べた。
「負けてる時でも、勝ってる時でも大きな声で応援してくださる。それは本当に力になってました。やっぱり、最後は『気持ち、気持ち』と森薗監督が常に言ってくださって、自分も気持ちだと思ったので、最後はもう気持ちでネジ込みました」
9日の準決勝では世界ランク5位の張本智和(トヨタ自動車)との日本勢対決に臨む。1月の全日本選手権で2連覇を達成した19歳。横浜で繰り広げた死闘の裏には、互いを理解しているからこそ響く、師弟の“言葉力”があった。その言葉を力に変えながら、頂点まであと2勝に迫った。
(THE ANSWER編集部)












