「THE ANSWER 陸上PRUS」 U18世界最高記録…洛南・後藤大樹の肖像Vol.1
日本陸上界に現れた新世代の逸材が世界に挑んでいる。U20ユージーン世界陸上の男子400mハードルに出場している17歳・後藤大樹は今年6月の日本選手権で高校2年生ながら優勝。U18世界最高記録も叩き出した。陸上界の“不滅”の1つとされた記録を打ち破り、世代別世界一を目指すハードラーの凄さとは――。多くの名選手を輩出した洛南で指導する名伯楽・柴田博之監督の証言から迫る。(全4回の第1回、取材・文=寺田 辰朗)
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世界に挑戦する高校生が出現した。
後藤大樹が6月の日本選手権男子400mハードルで、日本代表経験者を含むシニアの日本トップ選手たちを破って優勝した。その時にマークした48秒09は、U18世界最高記録。日本の学年で言えば高校2年生までの世代で過去、世界で一番速く走った選手となった。8月5日にU20ユージーン世界陸上が開幕したが、48秒09はU20でも今季世界最高記録であり、後藤は金メダル候補に挙げられている。
7月31日の出発時に次のように抱負を話した。
「初めての世界大会なので、どんな選手がいるかまったくわかりませんし、どういう会場かもわからないのですが、海外での適応力が試されると思っています。そこで勝ちきる力をつけたいと思っています」
洛南高の柴田博之監督は「後藤も私も、金メダルを目標と口に出すべき立場だと自覚しています」と話している。
ちなみに昨年の東京世界陸上では、48秒16の選手が準決勝を通過している。ただ世界大会本番では自己記録を出すことが難しい。現時点でシニアの世界大会決勝を走る力があるとは断言できないが、今後の成長が期待できる17歳である。来年の北京世界陸上、28年のロサンゼルス五輪で決勝を戦う姿がイメージできる選手であるのは確かだ。
“不滅”とされた為末大の高校記録を更新
後藤は千葉県の四街道北中学出身。洛南高に進学した経緯は【Vol.3】で詳述するが、中学時代は110mハードル(高さ91.4cm)で全日本中学選手権に優勝した選手だった。柴田監督の勧めで400mハードルにも取り組み始め、1年目のインターハイに49秒84の高1最高記録で優勝した。1年生選手の50秒突破は後藤が初めてで、高1歴代2位は51秒32である。
高校1年生としては突出した存在だったが、今季の成長はさらに、予想を大きく上回った。木南記念(5月10日)で49秒34、香港で行われたU20東アジア選手権(同30日)で49秒25と高校歴代2位記録を連発。高校記録は現日本記録(47秒89)保持者で、世界陸上で2001年と2005年の2度銅メダルを取った為末大が、高校3年時(1996年)に出した49秒09である。
陸上界には“この記録は何十年と破られないだろう”と考えられている記録がいくつか存在する。為末の400mハードル高校記録もその1つで、後藤が昨年高校1年生で49秒84を出した時も「為末の記録まではね」という雰囲気があった。それが5月の結果で「48秒台後半を出すのではないか」という期待に変わったが、日本選手権の記録はそれを上回り、予選で48秒31と一気に48秒台前半まで到達した。
後藤の快進撃は400mハードルだけにとどまらなかった。7月には200mで20秒43(-1.0)の高校歴代3位で走って見せた。高校記録は世界陸上100mで2度入賞しているサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が持つ20秒34で、歴代2位は洛南高の先輩でもある桐生祥秀(日本生命)の20秒41である。桐生は日本人初の100m9秒台を出した選手で、日本を代表するスプリンター2人の高校時代の記録に、ハードラーの後藤が近づいた。高いスプリント能力(短距離の能力)は後藤の大きな特徴といえる。
柴田監督が「めちゃくちゃ強い」と評したメンタル
為末とは種目に取り組む順番が逆で、為末は100mと200mで中学チャンピオンとなり、高校3年時には400mで高校新をマークした。そして高3秋の地元国体で初めて400mハードルに挑戦し、いきなり49秒09と高校記録を0.92秒も更新した。当時のU20世界歴代5位だった。後藤は対照的に、先に400mハードルで世界レベルの記録を出した後に、短距離種目で世代トップレベルの記録を出した。
国際大会の成績に関しては、為末は高校3年時の世界ジュニア選手権(現U20世界陸上)400m4位と、高校時代から力を発揮した。世界を相手にしても萎縮しない強さが為末にはあった。後藤も今年5月のU20東アジア選手権400mハードルで優勝したが、国際大会での本当の強さがわかるのはこれからだ。
柴田監督が「めちゃくちゃ強い。ふてぶてしく見えてしまう可能性もある」と評したメンタルは、国際大会でもプラスに働きそうだ。まずはU20世界陸上が試金石となるが、6日(日本時間7日)に行われた予選は50秒45と余力を残しての組1着で準決勝に駒を進めた。
世界陸上メダリストに成長した為末の軌跡を、後藤がどう追いかけて行くのか。準決勝は8日(同9日)、決勝は9日(同10日)。世界との戦いが17歳の行く手に待ち構えている。
(寺田 辰朗 / Tatuo-Terada)












