Fujitsu Sprint challenge 2026
人間・田中佑美を見てほしい――。陸上女子100メートル障害で24年パリ五輪代表の田中佑美(富士通)は、自らをそう語った。日本トップハードラーでありながら、強さだけではなく、弱さも隠さない。25日、川崎・Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuで、陸上教室に参加。世界トップとの差に向き合いながら、自身が大切にしている生き方、そして「走る意味」を口にした。
言葉の端々には、飾らない人柄がにじむ。競技普及への思いを問われると、田中は思考を巡らせた。選手として結果を出して、走る魅力の発信を欠かさないのは大前提。その先で、1人の人間としても見てほしいという思いがある。
「私はどちらかと言うと…『人間・田中佑美』を見てほしい。みたいなところがあるんです(笑い)」
日本歴代5位となる12秒80の自己ベストを持ち、2年前のパリ五輪では準決勝に進んだ。ただ日本のトップハードラー田中佑美として、強いアスリート像だけを演じ切ろうとは思っていない。
「もちろん私を知ってもらう入り口は陸上だと思うのですけど、『陸上選手だから、こうなんでしょう』みたいな枠組み(固定観念)じゃなくて、弱音もしっかり出していく。なので取材では、かなり正直に答えさせていただいてます(笑い)それで『あんたも頑張ってんだな』って少しでも思ってもらえるような選手になれればって思ってます」
苦しい時は苦しいと言い、迷った時は迷ったと隠さない。それも含めて自分だと思っている。意識するのは等身大。トップ選手として結果を積み重ねながら、ファッション誌など広告モデルの仕事もこなす。インスタグラムのフォロワー数も約11万7000人だ。
その「人間・田中佑美」という生き方は、この日も変わらなかった。ファン交流イベント「Fujitsu Sprint
challenge 2026」の中で実施された陸上教室では、キャラ全開で講師をこなした。小学3、4年生約50人を前に「私の体に数字が隠れています。どこにあるかな?」とクイズ形式で呼びかけた。全身で「4」の文字をつくり、地面に大きなパワーを伝える走り方を指導。出身は大阪。関西弁もあいまってか、その語り口は独特の親しみやすさで惹きつける。すぐに子供たちの心をつかんだ。報道陣の前では「私の精神年齢が近いだけ」とおどけた。
「結果が一番の世界。その中でも記録だけでなく、記憶にも残る選手になればと思っています。(関わった人に)『なんかよく分かんないけど面白い人いたな』とか『楽しかったな』って思ってもらえるような思い出をつくってもらいたい。競技力プラスアルファで、そういうものを人の心に届けられるようなことができたらと思っています」
宝塚歌劇団に憧れた学生時代、それでも陸上を選んだ理由
もともと中学から陸上を始めた。習っていたクラシックバレエと両立できるとの理由だった。「かなり消極的な感じで」と当時を振り返る。宝塚歌劇団に憧れ、高校卒業後の進路として考えた時期もあった。それでも結局、選んだのは陸上だった。「性に合っていて」と走り続ける。五輪1度、世界選手権2度の舞台に立ってきた。
「走る意味」を考えながら、日々を過ごす。27年世界選手権北京大会の女子100メートル障害の参加標準記録は12秒60。自己ベストを0秒20も速い。簡単な数字ではない。3大会連続の世界選手権出場へは、参加標準記録をクリアする以外には、世界ランキングを上げる必要がある。そのためには、高いポイントを得られる大会で結果を積み重ねていかなければならない。その中でも「その試合が楽しいかも、レース選びの基準にしたい」と話す。
世界の壁は分厚い。さらに未踏の領域である世界大会の決勝となれば、なおさらだ。だからこそ立ち向かう過程を大事にする。決して諦めではない。少し割り切った境地で、たくさんの「楽しさ」を見出す。
「(世界大会に)出たい。でも、そのために走っているんじゃない。やっぱり自分に結果は求めてしまう。でも、そのためだけには走らない。速くなりたいから走る。自分が何が楽しいのか、何をしたいのかを理解する」
そう胸中を言葉にした。そして最後に、らしく笑った。「じゃないとやっていられないので。分かりますか? この感じ」と“弱音”を付け足した。
同時に「自分に負けたくないのが一番かもしれないですね」とも言う。追い求める「楽しさ」と、本能にある「負けず嫌い」を掛け合わせ、己を突き動かすエネルギーを最大化する。
隠さぬ弱音と隠せぬ勝気。その相反する思いに、人間味がにじみ出る。走りながら、田中佑美の生きざまを表現していく。
(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)












