リーグワン規約変更問題が節目 ラファエレが会見、「見直し案」の協議へ
ラグビーの国内最高峰「リーグワン」で、物議を醸してきた規約変更問題が節目を迎えようとしている。リーグワンは昨年5月に、日本出生選手、海外出身選手らの登録区分である「カテゴリ制」を来季(2026-27年シーズン)から修正することを発表。試合出場機会や雇用にも悪影響を及ぼしかねないと懸念を持った海外出身選手、とりわけ日本国籍も取得した代表経験者ら24人が裁判所に新規約の施行を差し止める仮処分を求める事態になっている。7月30日に、仮処分を求めた選手の一人ラファエレティモシー(コベルコ神戸スティーラーズ)が東京・千代田区の日本外国特派員協会で会見を行い、新カテゴリ制度や日本ラグビーへの思いを語った。会見後にはリーグワン側が「見直し案について協議を進めている」というリリースを表明。選手、リーグとも、双方が受け入れられる修正へと協議を加速させている。(取材・文=吉田 宏)
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過去にない“対立”に変動が起きようとしている。
会見は外国特派員協会主催ということも影響して、参加メディアは10社前後。いわゆる日本メディアは、国内大手新聞社、通信社と限定的ではあったが、直後のリーグワン側のリリースも踏まえると、1年以上の係争にとっては大きな1日となった。
昨年5月にリーグワンが発表した26-27年シーズン施行の新カテゴリ(修正案)については、当初から「差別的」で海外出生選手の不利益になりかねないという議論が沸き起こって来たが、不当な改正だと訴えてきた中心的な存在でもあるラファエレは会見で、自身の思いをこう語った。
「私だけじゃなく(訴え出た)仲間も代弁すると、若くして日本に来てから日本のラグビー、ラグビーコミュニティーに僭越ながら献身的に取り組んできた身として、このカテゴリの変更はやはり悲しみを覚えます。この変更のことを聞いた時には、屈辱を感じましたし、これだけ日本のラグビーのためにやってきたという思いに対して、リーグの措置はないかなと思います」
会見後に「テストマッチより緊張したよ」と談笑したが、硬い表情で慣れないラグビー以外の質疑応答に臨んだ話ぶりは彼らしい真摯で誠実なものだった。サモア系ニュージーランダーの“ティム”が、山梨学院大にやって来たのは18歳の時だった。その後、神戸製鋼(神戸S)へ進み、2017年には日本国籍を取得、19年ワールドカップで日本代表として輝かしい足跡を残した。8月には35歳になるベテランは、若手路線に切り替える日本代表では、22年6月のウルグアイ戦以降メンバーを外れているため、この先の代表キャップの積み上げは容易ではないが、現在のキャップ数「28」も、今回の“対立”の大きなポイントにもなっている。
今回のカテゴリ制の変更(リーグ側の説明では「選手登録における追加の登録区分」)や問題点に関しては、昨年5月の本コラム(『「他のスポーツは日本国籍を持てば平等なのに…」 ラグビー界で賛否、導入される“日本人選手優遇”新規約の問題点を検証』)を参照していただきたいが、簡単に触れておこう。
規約修正が議論を巻き起こした背景
リーグ側では日本生まれの選手たちの出場および雇用機会を増やしたいという思惑から参入チームも合意の上で規約を修正。従来は、国籍や出自に関係なく日本代表および代表有資格者「カテゴリA」と定められてきた選手を、来季からは「カテゴリA1、A2」に分けて、A1は従来のカテA選手のうち、6年以上の日本の義務教育を受けた者、日本出生の両親祖父母を持つなどとし、A2をカテAのうち代表30キャップに満たない選手などと差別化する方針を決めた。
つまり日本で小中6年以上教育を受けない海外出身選手は、日本国籍を持っていたとしても、1試合における出場枠、メンバー登録枠でもA1の枠の選手が優遇されることになる。28キャップのティムのような日本国籍を持つ代表経験者でも、30キャップに満たなければ「A2」に分類されてしまい、現行ルールよりも出場枠に制限がかかるのだ。付け加えておくと、海外出身選手の大量流入等が報酬の高騰を招き、リーグ参入チーム(企業)に過度の負担増を求めることになるのを回避する狙いも規約修正にはあった。
この規約修正が議論を巻き起こしたのは、果たして職業(選択)の自由を謳う日本国憲法や労働基準法などに照らし合わせて、少なくともティムのような日本国籍を取得した海外出身選手に不利益が生じるのではないかという規約面、そして長らく代表選手として日本に貢献してきた、誰もが日本代表だと認める選手を、「30キャップ」で線引きすることへの心情面という双方でだった。
そのため一部の論調では、選手のコメントも相まって「人種差別的」「レイシスト」という表現でリーグ側を糾弾するものもあった。人権擁護的なスタンスからはそう訴えられるものも、リーグ、そして統括組織である公益法人日本ラグビー協会(JRFU)の抱く背景、そして関係者の考え方を踏まえれば、差別感情が動機ではなく、強いて言えば、そのような論調、考え方への配慮不足(そこが社会的には大きな問題点でもあるが)があったと考えるのが妥当だった。
実際にこの日の会見でも、ティムと同席したリーグ側との係争の代理人の牧野誠司弁護士は、今回の規約修正に伴うリーグ側との話し合いからは、こんな受け止め方をしている。
「決して人種差別、差別的な意図は、雰囲気としては感じませんでした。また、私はあくまでも選手(24人)の代理人ですので、この規定の良し悪しを計る上では依頼者である選手にとって良くない言及しか出来ない」
今回の会見で同弁護士は、選手側、リーグ側双方が、裁判所へ、それぞれの主張、問題点などを書面で提出し終えていることを明かしている。選手側は公正取引委員会にも訴えている中で、協議が進んでいるのは裁判所だという。ここで傾聴するべきは、これ以降も裁判所の判断を待つのではなく、双方での話し合いを進めるという考え方だ。
「今も(リーグワンと)話し合いを継続しています。裁判所の決定というより、まず話し合いで解決したいという思いが選手側はあります。リーグ側も同じだと思うので、話し合いによる解決を、裁判所が間に入っていただいている状態で継続しているのが現状です」
このコメントを補完するように、リーグ側もティムらの会見終了から1時間程後に、以下のような短文のプレスリリースを出し、公式サイトにもアップしている。
「現在リーグワンは、2026-27シーズンから導入する選手登録における追加の登録区分の制度(2025年5月発表)に対し、一部選手らが、東京地方裁判所に制度の施行差し止めの仮処分を求めている件について、選手側と和解協議を進めています。
東京地方裁判所における和解協議の場においては、従前発表した制度ではカテゴリA-2に該当する想定だった一部選手をカテゴリA-1とする見直し案について協議を進めております。今後、和解協議の結果を踏まえ、制度の見直しの詳細について改めて発表いたします」
あるリーグワン関係者も「後は裁定を待つため何もしないということではなく、引き続き訴え出た選手側、裁判官とも協議を進めて、あくまでも双方の話し合いで合意を目指したい」と話し、選手側弁護士と同じ姿勢で向き合っている。
早ければ今月中の“和解”の可能性も
基本的にリーグワンでは昨年5月の発表したものを一貫して主張してきた。つまり、訴え出た外国人選手や、差別的という世論とは異なる主張を続けてきたのだが、今回のリリースは、わずか238文字という短文ながら注目するべきメッセージを読み取れるものだった。通常、90%以上は日本語のみのプレスリリースが、今回は英文バージョンと一緒に送られてきたことも、ことの重大さ、とりわけ海外メディア、世論の反応を重々に、かつ慎重に意識していることが読み取れるが、それ以上に従来からのスタンスを基本としながらも、一歩踏み込んだ言葉を使っている。
それは「見直し案について協議を進めております」という見直しを進めようという積極さであり、「制度の見直しの詳細について改めて発表いたします」という、制度の修正を認める言い回しだ。裁判所の裁定がいつ下されるかは計算が立たない一方で、先にも触れた通りリーグ、選手側双方が、裁定前にも合意を目指そうという意思を持って話し合いを進めており、一部関係者は「7月の解決を目指したが、そこまでには至らなかった。でも、来月(8月)末までの最終決定の可能性は模索している」と、早ければ今月中の“和解”の可能性も見えてきている。
もし昨年5月の発表から修正、変更があるとすれば、おそらく「A1、A2の撤廃」まで踏み込まず、今回差し止めを求めたティムらのような代表で長きに渡り貢献してきた選手、日本国籍取得選手らへの“特別措置”が取り入れられることになるだろう。このような「A1、2撤廃」か「特例容認」かの議論については、外国出身選手自身や“人権派”のサイドからは全面撤廃が求められるかも知れないが、今回の修正案が生まれた背景にある「日本出生選手への優遇」を考えると、合意、撤廃は難しいのが現実だろう。
一部には、この日本選手への優遇が、競技人口の拡大に大きな影響はないという声もある。海外出身選手の増減は国内競技人口とは実際は関係ないという主張だが、会見でもティムは「子供たちがリーグワンの試合をみて、外国人たちが多いのでラグビーをやりたくないと思うとは考え難い。日本のためにプレーしたいと思うのは当たり前のことで、私もラグビー選手になりたいと思って育ってきたので、むしろどうやってラグビー人口を増やすのか、どうやって子供たちがラグビーという競技に従事するよう、目標を持て、動機付けするかを考えた方がいいかと思う」と指摘している。
だが、これだけジュニア世代、育成世代の人口が激減する状況を現場で見てくれば、子供たちから「リーグワン選手になれる」という夢や憧れを奪う可能性がある現実を、なんとか前向きな方向へ修正したいと考えるのは当たり前のことだ。
子供たちは、初見では日本選手、海外選手を問わず華やかなプレーや、国際舞台で活躍する代表選手の姿に惹き付けられ、憧れる。だが数か月もすれば、かなり現実的に自分が置かれた状況や日本代表、トップチームのメンバー構成などを理解して、シビアな未来図も描けるものだ。むしろ理想論に走る大人よりも子供の方が現実的な視野を持つことも多い。前のコラムでも触れたように、高校指導者が「ウチに来て将来代表を目指そう」と“但し書き”抜きで語れなくなっているのが現実だ。
残された課題 カテゴリ問題の和解=競技人口の拡大までには至らない
そんな現実の中で、今回のカテゴリ制度の修正を巡る騒動が和解で終わることになれば、それはこの先のリーグワン内部での日本選手の活躍の場を確保するという点ではプラス材料だろう。だが、その一方で「競技人口の拡大と普及」は、日本代表チーム流の言葉を使えば、更なるリーグ、協会関係者らのエフォート(努力)が必要だ。カテゴリ問題の和解=競技人口の拡大までには至らないのも事実だ。
グローバル化、ボーダーレスといった言葉や、ダイバーシティは現代社会では大きなテーマであるのと同時に、誰もが与し易い主張でもある。だが、その中で、日本のラグビーフィールドに植えるべき“苗木”は年を追うごとに減少し続けているのも事実だ。そんな現実を、ラグビーはどう乗り越えていくのか。今回の規約修正も、普段は「発案」から「実行」まで呆れる程動きが鈍いことも多いリーグ、協会サイドが迅速に手を打ったという点では、やはり危機感を強く印象付けるものだった。その素早い対応の中で、一部の選手たちに不要の懸念や心配をさせてしまった弊害はあったのは明らかだが、ようやく正常なフェーズへと軌道修正しようとしている。
ティムは、メディアからのやや誘導的な「このルールが18歳の時に適用されていたら来日していたか」という質問に対して「18歳で来日したのは、いいチャンスだと思ったからです。また日本の文化を知る、日本でプレーをする、日本にお返し、貢献をするという気持ちでやってきた。日本でプレーしたいから故に国籍も取得して日本のラグビーにお返ししたいとやってきたんです。しかし、もしこの規約があったら、また一部の選手だけ扱いが異なるようなことがあると知っていたら、おそらく考えを変えて(日本を選ぶ)決定も変えていたと思う」と、この規約案への不当性には強い反感を示している。実際に、この新規約(案)の影響で、引退を選ぶなど契約面での不利益を被った選手もいる。ここはリーグ側も認めて、なんらかの救済を考えてもいい問題でもある。
最後に、会見でのティムのリーグ、日本ラグビーへ向けた思いを紹介しておこう。
「選手とリーグワン両方に恩恵がある状況をもちろん望んでいます。ルールをもし将来的に本当に改正するのであれば、リーグにお願いしたいのは、まず外国出身の選手の意見を聞く、それのみではなくこうした国際的なルールに精通した専門家の意見も是非検討していただきたいと思います。リーグワンが世界的なリーグに、競争力のあるリーグになることを望んでいるのなら、是非そういう措置を取っていただきたいと思います」
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。












