MLB経験を持つ初の侍ジャパン監督…それ以上に大きな経験とは?
野球日本代表「侍ジャパン」トップチームの監督に、元ロッテ監督の井口資仁氏が就任することが発表された。25日に東京都内のホテルで会見が行われ、契約期間はひとまず2028年のロサンゼルス五輪までとされている。井口監督はこの会見で「使命」という言葉を繰り返した。五輪で野球が行われるのは、2021年の東京五輪以来。ここで日本代表は金メダルを獲得している。にもかかわらず、2028年には“リベンジ”が必要な理由があった。
黒のスーツで会見に臨んだ井口新監督は、現役時代から変わらぬ鋭い眼光を報道陣に向けてこう言った。
「勝つことはもちろんですが、それ以上に日本中の子どもたちが『侍ジャパンのような選手になりたい』と言う、そんなチームを作っていくことも、私の使命だと思っています」
今春行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表は大会史上初めて準々決勝敗退に終わった。2027年秋には五輪の出場権がかかったプレミア12、そしてロス五輪と国際大会が続く。井口氏を監督に選んだ理由として、侍ジャパン強化委員会委員長の中村勝彦氏は「国際大会や海外での豊富な経験、チームを一つにまとめあげるリーダーシップと求心力。国内外における高い信頼と知名度、ファンやメディアに対する発信力、そしてアマチュア野球を含めた日本野球界への深い理解と敬意」を挙げた。
そして、最大目標はロスでの金メダル獲得だ。そのためには世界の野球を知り、変化を柔軟に受け入れようとする指導者が不可欠だと考えた。井口監督はホワイトソックスで2005年のワールドシリーズ制覇の中心メンバー。大リーグでのプレー経験がある人物が、侍ジャパンを率いるのは史上初めてだ。
それ以上に貴重なのは、五輪で異質な野球とぶつかった経験だ。井口監督が選手として戦ったのは、1996年のアトランタ五輪。決勝は当時世界最強のキューバと壮絶な打撃戦となり、日本は9-13で敗れて銀メダルに終わった。五輪はWBCよりも、各国の色が強く出る。日本では考えられない常識に行く手を遮られながら、それを越える方法を探していく舞台なのだ。
2021年の東京五輪で、稲葉篤紀監督率いる日本代表は金メダルに輝いた。ただ日本球界には無念の思いが残った。当時強化本部長だった山中正竹氏(現・全日本野球協会会長)から、こんな言葉を聞いたことがある。
「WBCとは違った盛り上がり」五輪で好勝負を見せないといけない理由
「東京五輪に参加したあのチームの素晴らしさを、どうしても伝えきれない部分があった。それは本当に残念に思っています」
新型コロナウイルスの感染拡大で、1年間開催を延期して行われた東京五輪だったが、スタンドに観客を入れることはかなわなかった。金メダルを首にかけた日本の選手たちを見守ったのは、横浜スタジアムの無人のスタンドだった。「テレビ中継やいろいろなインタビューで、その瞬間は感動してもらうことはできたかもしれない。でも実感がどうしても伴わないんですよ。現地で見た人がいないのだから」と山中氏が言うように、日本球界は野球の魅力を拡散するチャンスを逃したのだ。
山中氏は1992年のバルセロナ五輪で日本代表監督を務め、銅メダルを獲得している。その時痛感したのが、五輪というイベントの持つケタ違いのパワーだった。この日の会見でも「オリンピックというのは、WBCとは違った意義があったり、盛り上がりがあるんです。井口監督もアトランタを経験しておりますし、私もそういった経験をさせていただいております」と口にした。特に子どもたちと母親に野球の魅力をアピールするのに、これ以上の機会はないのだという。
プロ野球の観客動員は昨年、史上最多の2704万人に達した。コロナ禍による危機を乗り越え、繁栄を続けているように見える。ただ足元では、野球をする子どもが恐ろしい勢いで減っている。少子化をはるかに超えるペースだ。
例えば昨年度、日本中学校体育連盟が発表した男子の軟式野球部員は13万85人。これはバスケットボールの15万4929人、サッカーの14万8730人に水をあけられている。女子を含めればさらに差は開く。軟式野球単体で見ても、男子部員は10年前の2015年度から36%減、20年前の2005年度から見れば56%減という衝撃的な数字なのだ。
井口監督は、日本野球の一番の良さを「チーム力だと思います」と表現した。「短期決戦では、個の力だけでは世界一になれません。お互いを信じ、高め合い、理解し、1人1人がチームのために戦う集団こそが、本当に強いチームだと信じています。日本らしい緻密さ、粘り強さ、そして挑戦する姿勢を世界に示していきたいと思っています」。野球に魅力を感じて、始めようと思ってくれる子どもたちが増えなければ、その命脈も細っていく。
初陣は、11月12日から東京ドームで行われる「ラグザス アジア プロ野球チャンピオンシップ 2026」に決まった。韓国、台湾、オーストラリアが参加し、24歳以下の若手が中心だ。ここに姿を現す日本代表はどのようなメンバーになるのか。大きな十字架を背負った新体制が2年後、ロスの夏を目指し走り出す。
(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)












