Kate Abnett Nora Buli
[ブリュッセル/オスロ 6日 ロイター] - 米国とイスラエルによる対イラン戦争によって世界の天然ガス供給が逼迫し、欧州の天然ガス在庫は過去最低の水準に落ち込んでいる。この状況で想起されるのは、インフレを加速させ、産業界の利益を圧迫した2022年のエネルギー危機だ。
もっとも、今回は当時と比べて欧州のガス消費量は減少しており、再生可能エネルギーの利用も拡大している。一方で、ロシアからのパイプラインガスへの依存を減らし、より国際市場で取引される液化天然ガス(LNG)へと調達先を移したことで、十分な備蓄が確保できないまま厳冬期を迎えた場合には、高値でガスを調達せざるを得なくなる恐れがある。
欧州ガスインフラ協会のデータによると、現在のEU域内のガス貯蔵率は58%弱。これは2011年以降の同時期としては過去最低で、前年同期比でも12ポイント低い。
22年には、ロシアによるウクライナへの全面侵攻でガス市場が混乱し、企業が備蓄確保に奔走する中でロシアが供給を削減した。その結果、天然ガス価格は1メガワット時当たり300ユーロ(346ドル)を超える過去最高水準にまで急騰した。
こうした事態を受け、欧州連合(EU)は毎年11月までにガス貯蔵施設を容量の90%まで満たすことを目標として導入した。しかし、冬季前の駆け込み購入によって価格が押し上げられるのを避けるため、その後、この目標は12月までに80%へと緩和された。
また欧州の政策当局者や市場参加者は、備蓄積み増しのためにLNG利用がさらに増えると見込んでいた。しかし2月末にイランで戦争が勃発したことを受けてホルムズ海峡が閉鎖され、通常であればカタールから供給される世界全体のLNGの約20%が市場から失われる事態となった。
欧州の天然ガス価格は、戦争前には1メガワット時当たり約31ユーロだったが、7月下旬には60ユーロ近くまで上昇し、ほぼ2倍となった。その後は、米国とイランの和平合意への期待が高まったことで、現在は53ユーロ前後まで下落している。
<価格見通しには大きな開き>
調査会社エナジー・アスペクツによると、ホルムズ海峡の航行正常化がいつ実現するかによって、この冬のガス価格は1メガワット時当たり60-80ユーロの範囲で推移する可能性がある。
ただカタール産LNGの供給が途絶えたまま、さらに例年より寒い冬になった場合には、11月から翌年3月までの平均スポット価格が110ユーロに達し、3月末時点の貯蔵率は10%程度まで低下しかねない。
さらに、シーズン終了時に16%の在庫を確保しようとすれば、平均価格は210ユーロまで上昇する事態もあり得る。
<LNG依存は拡大>
22年と比べると、欧州のガス消費量は減少し、再生可能エネルギーの利用は増加している。欧州各国はLNG受け入れインフラを急速に整備したことで、供給確保の選択肢は広がっており、22年当時のようにロシアのパイプラインガスへ大きく依存していた状況とは異なる。
とはいえLNGへの依存度が高まったことで、パイプライン契約に伴う固定価格の恩恵は失われた。その結果、冬場に追加調達が必要になった場合には、価格急騰のリスクにさらされやすくなっている。
ウッド・マッケンジーのシニア調査アナリスト、デービッド・ルイス氏は「欧州の低いガス在庫は極めてリスクの高い状況を生み出している。もし非常に寒い冬になったり、長期間にわたる寒波が発生したりすれば、需要抑制策を取るか、価格上昇を受け入れるかしなければならなくなる。さもなければ欧州市場はガス不足に陥る可能性がある」と警告する。
EUのガス貯蔵施設の容量は約1020億立方メートルで、通常の冬であれば、引き出されるガス量は消費全体の最大30%を賄うことができる。
欧州委員会の報道官は「最新の評価では、貯蔵率80%という目標は冬季の供給確保に十分であり、技術的にも達成可能である」と説明している。
しかしアナリストの見方は懐疑的だ。ロイターが確認した予測では、冬前のガス貯蔵率のピークは67-76%にとどまる見込み。しかも、その比較的低い水準に到達するためであっても、欧州の買い手はアジア勢との競争に勝つために、より高い価格でLNG貨物を確保する必要がある。アジアの需要家もまた、ホルムズ海峡経由で供給されていた通常の調達分を代替しなければならないからだ。
ホルムズ海峡の混乱はLNGを巡る世界的な競争を激化させ、価格上昇を招いた。その結果、ガス市場では「バックワーデーション」が一段と進行している。これは冬場向けの価格よりも足元の価格の方が高い状態を指す。
このため今ガスを購入して貯蔵し、冬に売却するという行為には経済的な合理性がほとんどない。オーロラ・エナジー・リサーチの調査責任者、ジェイコブ・マンデル氏は「現在の市場価格を見る限り、貯蔵施設を満たすための経済的インセンティブは全く存在しない」と述べた。
同氏の話では、冬までに貯蔵率を80%へ引き上げるには、ガス注入ペースを過去最高水準近くまで引き上げる必要があり、それを実現するには政府による介入が不可欠だという。
だがそうした介入に対する支持は乏しい。さらにEU当局は、ロシア産LNG輸入禁止措置を予定通り実施する方針を維持している。この措置は今年末に全面適用される予定で、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの資金流入を断つことが目的だ。
最終的にガス価格がどの水準に落ち着くにせよ、そのコストは家庭と産業界が負担することになる。エナジー・アスペクツのシニアアナリスト、エリサ・パスコ氏は「この冬だけでなく、次の冬にかけてもエネルギー料金の上昇につながるだろう」と話している。












