(DBJの運用ルールに関する説明を明確にして再送しました。)
Yusuke Ogawa
[東京 28日 ロイター] - 事業アイデアは面白い。でも、投資はできない――。防衛分野での起業に際しベンチャーキャピタル(VC)からそう告げられ、米国で会社を設立した若手経営者もいる。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中、今春に武器輸出の制限が緩和されたこともあり、防衛ビジネスへの関心は高まりつつある。だが、投資家の慎重姿勢や政府調達に伴う収益性の低さなどが、事業化の前に立ちはだかる。
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米カリフォルニア州に拠点を置くスタートアップ企業、ブルワーク・ダイナミクス共同創業者の椎名悠太氏(23)は、防衛分野で起業した理由をこう話す。同社が開発を目指しているのは、物資輸送用の無人水上艇(USV)。安全保障を専門とする大学教授らに相談を重ね、台湾有事における海上補給の脆弱性に着目した。
慶応大生の椎名氏は当初、日本での起業を模索した。しかし、「防衛」の二文字が絡むだけで、国内VCの投資判断のハードルは高くなった。
理由について、「VCファンドに出資するリミテッドパートナー(LP)が、防衛分野への投資に消極的だから」と説明されたという。舟艇自体に殺傷能力はないが、中核的な防衛装備品に近づくほど、投資家の目線は厳しくなる。結局、椎名氏は2025年5月に米国で会社を設立した。
<投資縛るサイドレター>
日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の幹部によれば、一部のLPはレピュテーションリスク(企業の評判を害する恐れ)などを理由に、防衛分野への投資を制限するサイドレターをVCと取り交わしている。
政府系の日本政策投資銀行(DBJ)は5月に運用ルールを変更し、LP出資するVCファンドによる国内の防衛関連企業への投資を事実上解禁したが、ほかの大手民間金融機関は依然として投融資には慎重姿勢とされる。
事業会社系のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)では、別の事情も絡む。例えば、親会社のビジネスが中国市場に依存している場合、本業への影響懸念が「見えない制約」となり、投資担当者が有望と判断しても出資できないケースは少なくない。
とはいえ、防衛分野は予算の増額が続くほか、高市早苗政権が掲げる「戦略17分野」に含まれるなど、産業の裾野の広がりが期待されており、中には積極投資に乗り出したVCもある。
国内大手のコーラル・キャピタルは代表格で、5月に米新興のアンドゥリル・インダストリーズへの出資を発表した。アンドゥリルはAIを駆使した自律型ドローンや軍用無人車両、前線での指揮統制システムなどを開発し、企業評価価値は10兆円規模に達する。昨年12月には、日本市場に進出した。
コーラルの矢野莉恵パートナーは「アンドゥリルで経験を積んだ日本人エンジニアらが将来起業し、国内の防衛エコシステムを進化させていくことにも期待したい」と語る。同社は今後、日本発の防衛テック企業への出資を拡大する方針だという。
ほかにも、元国家安全保障局長の北村滋氏が代表を務めるコンサルティング会社「北村エコノミックセキュリティ」は、最大300億円を運用するファンドを立ち上げ、今秋から防衛スタートアップなどへの投資を進める計画を明らかにしている。
<急成長の道は険しく>
起業家にとっての壁は、資金調達だけではない。防衛分野では、製品に高い品質や安全性が求められるのは勿論、政府調達に時間がかかり、実証実験から本契約まで数年を要する。短期間での急成長を目指すスタートアップとは、本来相性が良くない。
東京大で起業支援を手がける馬田隆明氏は、「改善されつつあるとはいえ、防衛事業は(調達制度などを背景に)利益率が良くないこともあり、日本で時価総額1兆円を超える企業を目指すのはかなり難しいように見える」と分析する。
海外では、攻撃系の軍事製品・システムを手がける新興テック企業が、資本市場からの評価を高めているが、「日本のスタートアップがそうした戦略を取るのは、市場構造的にも、社会的受容性の観点からも困難ではないか」と述べた。
<問われる覚悟>
ただし、事業化における最も大きな障壁は、通常のスタートアップとは異なる「責任」かもしれない。
元海上自衛官で、軍民両用技術に詳しい立教大の大庭弘継特任教授は、「防衛分野に参入した時点で、その企業は人命に関わる領域で責任を負うことになる。途中での事業撤退は、自衛隊の活動や国家の安全保障に悪影響を与える可能性もある」と指摘する。
その上で、ロシアによるウクライナ侵攻を例に挙げて「戦時には自社が攻撃対象になりうることを覚悟する必要がある」との考えを示した。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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