Karen Brettell
[24日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長は「中央銀行は過度に発信せず、経済指標に語らせるべきだ」という考え方を掲げてきた。しかし今、ウォーシュ氏の代わりに市場自身が大きな声でメッセージを発している。
米国債市場では売りが加速し、長期金利は金融危機前以来の高水準に接近してきた。FRBが将来の政策指針(フォワードガイダンス)を大幅に縮小した結果として浮上したのは、債券市場では相場の大きな変動が「新常態」になるのではないかとの見方だ。
米2年国債利回りは一時4.37%と2025年2月以来の高水準を記録。指標となる10年国債利回りも4.71%まで上昇し、25年1月以来の高さとなった。
さらに30年国債利回りは5.19%と、07年以来突破していない水準に迫り、インフレ期待を除いた30年の実質金利は2.98%まで上がって08年以来の高水準をつけた。
TDセキュリティーズの米金利戦略責任者を務めるジェナディ・ゴールドバーグ氏によると、今回の債券売りの直接的な要因は地政学リスクだ。
原油価格の上昇やイラン情勢を巡る不透明感がインフレ懸念を強め、投資家はFRBの金融政策見通しを急速に見直している。
その上に米国経済が依然として底堅さを維持していることや、市場との対話を控えめにするウォーシュ氏の方針が金利上昇に拍車をかけている。
ゴールドバーグ氏は「市場への積極的なガイダンスを避けるというFRBの意図的な姿勢が(金利上昇の)一因だ。同時に、経済指標が比較的堅調で、地政学リスクの行方についても市場に明確な見通しがないことが影響している」と指摘する。
<実質金利の上昇が主導>
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントで課税債券戦略責任者を務めるレスリー・ファルコニオ氏は、今回の金利上昇は主に実質金利が主導したと分析する。
つまり市場は、FRBの最終的な政策金利到達点(ターミナルレート)をより高く見積もるようになっているということだ。
同氏は「今回の金利上昇の大部分は実質金利の再評価によるものであり、市場がより高い最終政策金利を織り込んでいることを示している。景気見通しも依然として堅調だ」と述べた。
現段階で市場はFRBの政策金利が来年6月ごろに4.23%前後でピークを迎えると予想している。足元の政策金利3.50-3.75%から大きく上昇する形だ。
先月に米国とイランが停戦した際には追加利上げ観測が後退したが、その後の戦闘再燃によって状況は一変した。FRBがこうしたインフレ圧力にどう対応するのか、市場は確信を持てずにいる。
こうした不透明感をさらに強めているのが、ウォーシュ氏のコミュニケーション手法だ。
パウエル前議長は、政策決定による市場の混乱を避けるため、事前に十分なシグナルを発信するスタイルを採用し、市場がFRBの決定に驚かされることはほとんどなかった。
一方でウォーシュ氏は、投資家がFRBの発言ではなく経済指標そのものを重視すべきだとの立場を取る。
FHNフィナンシャルのマクロストラテジスト、ウィル・コンパーノール氏は「ウォーシュ氏は、市場がFRBの一言一句を追いかけるべきではないと考えている可能性が非常に高い」と語る。
その結果、市場の政策金利予想は大きく揺れている。28-29日の連邦公開市場委員会(FOMC)について、現在金利先物が見込む利上げ確率は38%と、1週間前の12%から大きく切り上がった。
ゴールドバーグ氏によると、もしもFRBが金利据え置きを決定したとしても、市場予想(確率62%)とFRBの行動のかい離は過去10年で2番目に大きい。実際に利上げが行われれば、その乖離幅は24年9月の「50ベーシスポイント(bp)利下げサプライズ」を上回り、過去10年で最大となるという。
<財政懸念も重圧に>
もっとも、債券市場を圧迫しているのはFRBや原油価格だけではない。
イラン情勢の長期化による財政負担への懸念も広がっているからだ。ヘグセス米国防長官は、戦争関連費用が375億ドルに達したと明らかにした。
こうした中で市場は8月5日に予定されている米財務省の四半期定例調達計画にも注目している。
これまで同省は「少なくとも今後数四半期は国債発行額を据え置く」としてきたが、この文言が削除されれば、長期国債の増発が視野に入っているとのシグナルと受け止められてもおかしくない。
また最近は重要な経済指標の発表が少ないことや、投資家が利下げ期待を織り込んだポジションを解消していることも相場の変動を大きくしている。
ただ多くの市場関係者からは、財政問題を過大評価すべきではないとの声が聞かれる。ファルコニオ氏は「長期金利を左右する最大の要因は、やはり景気とインフレだ」と断言した。
UBSは、原油価格上昇による供給サイドのインフレだけでFRBが実際に利上げへ動く可能性は低く、現在の利回り水準は投資家にとって魅力的な投資機会になり得るとみている。
またファルコニオ氏は「金利リスクはクレジットや株式に比べて割安な状態にある」と指摘する。
ゴールドバーグ氏とファルコニオ氏はいずれも、長期債保有の見返りとして投資家が求める上乗せ利回りの「タームプレミアム」が比較的低水準にとどまっている点にも注目している。
10年国債のタームプレミアムは約70bpで、金融危機時のピーク水準を大きく下回っており、市場がまだ国債の供給増加自体を最大のリスクとは認識していないことを意味する。
そのため当面の市場を左右する主役は引き続き米景気とFRBの政策運営になる公算が大きい。
そしてこのような環境においてボラティリティーはむしろ高まりやすい。
ゴールドバーグ氏は「この先のインフレ見通しには極めて大きな不確実性があり、投資家の確信度も非常に低い。だからこそ、市場の変動は今後も続くだろう」と話した。












