Maki Shiraki
[東京 31日 ロイター] - 28日に発生した熊本地震の影響が、自動車業界のサプライチェーン(供給網)を再び揺さぶっている。2016年の熊本地震では、自動車部品メーカーの被災をきっかけに国内各地の完成車工場が操業停止に追い込まれた。当時の教訓を踏まえ、部品の分散生産や在庫確保は進めていたものの、二次、三次の仕入先にまで影響が波及しており、多階層に及ぶ供給網の脆弱さが改めて浮き彫りになっている。
アイシンの連結子会社で、ドアやエンジン関連部品などを手がけるアイシン九州(熊本市南区)の工場は、地震発生直後から操業を停止。同社は31日から生産再開に向けた準備を始めたが、本格的な復旧時期の見通しは立っていない。
アイシンの近藤大介副社長は31日の決算会見で、工場では給水設備の配管などが一部損傷したが、建屋の大きな損壊や主要設備の転倒は確認されていないと説明。「10年前と比べると建物の損壊は大きくなかった」と述べ、一部製品では30日からラインを動かして点検を始めていることも明らかにした。安全性と品質の確認が取れたラインから順次、生産を再開する方針だ。
近藤副社長は、関係会社などからの応援要員も含め200人弱が復旧作業にあたっているが、生産再開の時期については「この日からとは申し上げづらい」とも述べ、顧客への影響を抑えるため、「海外を含めた他の拠点で生産している互換品の活用や代替生産なども併せて進めている」と話した。
<10年前の教訓>
同工場は16年4月の熊本地震で壊滅的な被害を受けた。当時は前震と本震によって工場設備が大きく損傷し、「ドアチェック」と呼ばれる部品の供給が約4カ月間にわたって滞った。ドアチェックは、自動車のドアが急に開き過ぎたり、勝手に閉まったりするのを防ぐ機構部品。アイシンは当時、月90万本超を生産していた。
自動車業界のアナリストらによると、当時はトヨタ自動車の国内生産車の約9割にアイシン製ドアチェックが使われており、この部品不足がボトルネックの1つとなって同社は全国的な生産停止に追い込まれた。
10年前の経験からアイシンは「一極集中していた部品生産を分散化し、在庫も少し多めに持つ取り組みを進めてきた」と近藤副社長は語り、今回の供給維持に一定の効果が期待できるとの見方を示した。
アイシン九州が生産する自動車の部品は、トヨタだけでなく、同社の100%子会社であるダイハツ工業、日産自動車などにも納入されている。
ある自動車メーカーの幹部によると、今回は直接取引のある一次仕入先(ティア1)に部品や素材を納める熊本の中小企業が地震の影響を受けているとみられる。同幹部は「ティア1に部品を納めているティア2(二次仕入先)、ティア3(三次仕入先)などの企業からの供給遅延があるようだ」と話す。供給網の階層が深くなるほど実態把握は難しく、どの部品がどの工程に影響を及ぼすのかを特定するには時間を要する。
<各社に広がる稼働停止>
九州は国内有数の自動車産業集積地であり、地震の影響は完成車メーカー各社に広がっている。
トヨタは福岡県内の3工場の稼働を28日に停止。29日朝にいったん再開したが、仕入先の状況を踏まえて再び停止を決めた。31日夜勤までとしていた停止期間は8月5日まで延長した。愛知県の田原工場も8月3日から7日まで生産を停止する。
ダイハツは、軽自動車を生産する大分県の中津工場の操業を29日夜勤から、エンジンを生産する福岡県の久留米工場を30日昼勤から停止し、両工場とも8月5日まで操業を止める。仕入れ先や物流の状況を踏まえた措置で、8月6日以降の稼働については部品調達の状況を見極めた上で、来週あらためて判断する。
日産は部品供給の遅れを理由に、福岡県内の生産拠点である日産自動車九州と日産車体九州で一部生産を8月5日まで停止する。一部車種ではシート関連部品の供給に遅れが出ているという。
部品メーカーへの影響も顕在化している。トヨタ紡織は、トヨタの福岡県内の工場停止を受けて九州の工場の操業を停止。愛知製鋼の中村元志副社長は31日の決算会見で、「仕入先で特に大きな影響が出ているという情報は入っていないが、顧客のほうはかなり受けている」と述べ、現時点では数百トンの売上数量の減少を見込んでいることを明らかにした。
デンソーは九州に約30社ある取引先のうち、31日時点で16社は影響なし、13社は確認中、1社で影響を確認しているという。ジェイテクトは震源近くに約20社の仕入先があり、一部について状況確認を続けている。
豊田合成は、自動車メーカーの操業停止がどの程度続くのかを見通せず、業績への影響を現時点で算定するのは難しいとしている。
自動車生産への影響は、九州を超えても広がっている。三菱自動車は、一部サプライヤーの被災によって部品調達に支障が生じているとして、岡山県倉敷市の水島製作所で一部車種の生産を停止している。10年前の熊本地震でも同社はアイシンから調達していたエンジン部品の遅れにより軽自動車の生産を一時休止した。
前出の自動車メーカー幹部は、部品は人命に関わる製品であり、変更には極めて厳格な安全・品質面の認証手続きが必要になるとして「そう簡単にすぐ(代替品に)変えられるものではない」と語った。同幹部は、これまでの度重なる震災で取引先が被災した教訓から調達先の分散化は進めてきていると説明。その一方で、「ティア2やティア3など、サプライチェーンのティアの深い層に至るまでは分散できていない部品があるのも事実だ」と話した。
(白木真紀 取材協力:ダニエル・ルーシンク 編集:久保信博)












